第11章 炎
煽るように言葉をかけると、月城は目の色を変えた。あれはきっと本気でくる。
俺は距離をとって構えた。月城も両手でしっかり木刀を握って腰を落とし構える。呼吸は細いがしっかり吸い込んでいた。
彼女は凄まじい速さで接近してきた。この踏み込みは炎の呼吸が活かされている。
激しく刀を振り下ろしてくるのを、なんとか受け止めた。速さ、力も共に申し分ない。そして互いに当てに行った木刀が、互いの腹の既のところでピタリと止まった。
「よしよし!ここまでだな!」
「はい。」
俺たちは向かい合って直り、礼をした。千寿郎の方が戸惑っている。
「どうして、途中で止めてしまったのですか?」
「これ以上続ければ、木刀が折れてしまうからだ!」
月城はいつもの柔らかな笑みで俺の言葉に頷いた。
だがその表情も、俺が彼女に身体を向けるだけですぐ変わってしまう。他の隊士と同じ真剣そのものに。
「とても成長を感じたぞ。俺の教えた鍛錬を続けているのだろう?」
「はい、任務の合間には鍛錬を重ねております。」
千寿郎にも会いに来てくれて、鍛錬もきちんと続けている。頑張り屋なところは以前からあったが、時間の使い方も器用なものだ。
「感心感心!刀に対する力の流し方や受け方も見事だった!君の得意なところが活かされている!しかし!」
月城の目が強張った。より緊張している。
「途中、呼吸が細くなって止まっていた。あれが君の体にあったものなのか、俺にはそのあたり知識がないので分からないが、注意したほうがいい。」
「はい!ありがとうございます。」
月城は深くお辞儀した。そしてゆっくり身体を戻すと、空咳をしていた。
「大丈夫か?」
彼女は口を手で抑えながら謝っていた。
少し休めばすぐ治まるのだと。
「申し訳ございませんが、水をいただいてもよいでしょうか?」
千寿郎が動こうとしたが、ここは手が空いている俺がやろうではないか。
「今、持ってくる。休んで待っていてくれ。」
「用意でしたら、私が…」
「君は客人だ、気を遣う必要はない!」
月城は困り顔になりながらも、分かりましたと縁側に座った。千寿郎の稽古は彼女に任せて俺は炊事場へ茶の用意をしにいった。