第11章 炎
「はい、とても良いと思います。」
月城は変わらず優しい眼差しで千寿郎を見ていた。二人の変わらない姿を見ると安心する。
「月城!俺と稽古するか!」
俺も変わらず声をかけてみるが、俺に向けられた双眸は千寿郎へのそれとは違っていた。緊張と尊敬を孕んでいて、それは他の隊士が柱を見る目と同じだった。
それの何が悪いわけではない。むしろ当たり前ではないか。彼女は立場を弁えているだけだ。
「せっかくなので、お願いできますでしょうか。」
柱は継子以外に稽古はつけない。一般隊士にすればこれはまたとない機会。
「うむ!どれくらい成長したか楽しみだ!だが、体調にはくれぐれも注意するんだぞ。」
「はい。」
道場から木刀を持ってきて一本を彼女に渡した。
月城は刀を顔の前で垂直に立てて構える。その構えをするところは見たことが無かった。
俺は壱ノ型の構えをとる。
「行くぞ!」
「はい!」
駆け出せばそれが開始の合図。
俺が先に踏み出した。
炎の呼吸 壱ノ型 不知火
半分ほどに力を抑えたものの、月城は刀をうまく傾けて力を流した。
さらにそこから突き技へ発展させる。速い!
一発目は躱したが、間髪入れずに連続した突き技に刀で打ち返す。
これが真剣なら肉が削がれるだろうな。
「うむ!なかなか!」
俺も彼女の本気に応えるべく技を幾つも出して攻め立てた。
流石に男の力に刀で耐えるのは辛かろう。
つい熱くなってしまった。力を抑えなければ彼女には分が悪い。
だが思った矢先、月城は凄まじい速さと力で木刀を大きく振った。俺は自分の木刀を盾にして受けたが折れるかと思った。
甘露寺も力があったが、これはなかなかの威力。
全身をうまく使って重心を動かし、まさに体全体を使って刀を振っている。彼女は女性にしては上背もあるので膂力十分!
しかし!大きく刀を振れば、隙もまた大きくなるだろう。脇を狙うが、予想外に体を捻じり躱された。柔軟さも素晴らしい!感心していると、俺のほうが先に腹に一発入れられてしまった。
「ぐっ…!やるなぁ。」
やられてばかりもいられん。素早く接近して刀を振り、木刀は月城の背に入る。
「うっ!」
体勢を崩した彼女の手首、腕と打ち込む。
「どうしたどうした!それで終わりか!?」