第11章 炎
あれから、月城とは会っていない。
我が家には時々来てくれているようだが、俺の都合が合うことはなかった。
手紙は時々交わしている。内容といえば相変わらず千寿郎の事ばかりだったが、それでも良かった。
そして俺は発作のように息苦しくなることも無くなった。思うんだが、アレはやはり宇髄の思い過しではないだろうか。
俺は彼女に対して、何か特別な感情があるとは今も思ってはいない。
ある初夏の日。久方ぶりの休暇で千寿郎に稽古をつけていたとき、門扉から「御免ください」と女性の声がした。
俺が返事するより先に千寿郎が「姉上!」と駆けていく。
気づかなかった。俺は彼女の声を忘れていた。
千寿郎の後にゆっくり続くと、門をくぐる月城が俺を見て大層驚いていた。
「あっ!きょ…炎柱様!ご在宅でしたか。」
舌を噛みそうになる月城を見ているとどこか和む。
「名で呼んでもらって構わないぞ。」
そう言うと彼女は少し恥ずかしそうに笑った。
なんと可愛らしい…。
可愛らしい…?
妹のように、なのか。少し違うな、分からん。
「あの、せっかく兄上様もお戻りですし、私は出直します。」
月城は遠慮して、一度くぐった門を戻ろうとしたが、千寿郎に引き止められていた。
「え!どうしてですか?せっかく来たばかりじゃないですか。」
千寿郎は残念そうな顔をするかと思えばそんなことはなく、月城の腕を引っ張って庭へ連れ込もうとした。
「ですが…!お二人の大切な時間が。」
「千寿郎の言うとおりだ、月城。せっかく来たのだからゆっくりしていってくれ。君も一緒に稽古をつけてやろうか?」
千寿郎は月城を庭へ連れてくると、木刀を構えて素振りを再開した。
「姉上も見ていてください!」
勢いのある掛け声と共に木刀を振り下ろす千寿郎。やる気に満ち溢れている。
「まぁ、以前より勇ましくなられたのではないですか?」
「そんな…!姉上はつい先週も会っているではないですか。そんなにすぐに変わらないですよ。」
そうか、先週も来ているのか。どおりで帰ってきたときの千寿郎が元気なわけだ。月城がまめに面倒を見てくれるおかげだな。
「肩の力を少しぬくとよいですよ。」
「こ、こうですか?」