第10章 氷
最終選別へ行くためには、師範の出す試練を乗り越えなければならない。
それは師範から一本取ること。
兄弟子はこれを終えて行ったのに死んだ。だから以降は二本取らねば出してもらえないことになった。
片腕がなくても、耳がよく聞こえなくても、師範の動きは素早く洗練されていてとても強かった。
私がようやく最終選別に出してもらえるようになったのは、師範に挑んだ48戦目でようやく二本とれたからだった。
当日の朝、師範は私に言った。
「とにかく生きることを考えろ。あの試験も生きぬくことこそが目的だ。鬼が出てくるが勝てないと思ったり、怖くなったら藤の花のあるところまで逃げろ。棄権したって構わない。生きていればまた受けられるが死ねば無理なのだから。とにかく生きて帰ってきてくれ。いいね?」
私は黙って頷いた。
声に出せば、必ず守らなければならなそうで。
本当は死んでも平気だ。間違って死ねばそれもまたよし。
でも師範はしつこいぐらいに死ぬなと言った。
そし最終選別。7日間山の中で生き抜く試練。私はそこで初めて鬼を目にした。
恐ろしい姿で、鋭い牙と吊り上がった目で襲いかかってきた。
せっかく本当の刀を持たせてもらっているのに、怖くて逃げ続けた。
隠れて、逃げてを繰り返していつのまにか7日経った。
私は合格者に選ばれていた。
自分でも信じられない。
合格者は他にもいて、みな玉鋼を選び、服の採寸を測り、鎹鴉をつけられた。私のだけ梟だったけれど。
そして疲れた体のまま一日かけて師範の家に戻った。師範は外で待っていて、私の姿を見るなり駆け寄って抱きしめた。
「おかえり!おかえり!よく帰ってきたなぁ!」
師範が大きな声で泣くので他の子どもたちもやってきて、みんな私に抱きついてきて重くなって倒れた。
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蝶屋敷の縁側にて。
刀の手入れのために鞘から抜いて眺めた。
この硝子の刃はとても鋭く、血もつかない。
一部は鉄鋼なのでそこだけの手入れで十分なのが、簡単でありがたい。
これを初めて見たとき、これで本当に頸が切れるのかと思ったっけ。
皆、元気にしているかしら。師範も少しは教えるのがうまくなったかしら。
以前と比べれば生きる力は湧いていた。
それは他でもない、炎柱様の弟君の姿を見てからだ。