第10章 氷
「まずは体力と瞬発力をつける!裏の山に登って、降りるときは駆け足だ!」
みんなより遅れての稽古で、最初はただ野山をかけるだけだった。
それが仕掛けを躱すのは簡単でも、すぐに息が切れてしまうので体力をつけることが大変だった。それでも数日でみるみる変化した。
「鬼殺の剣士は呼吸を駆使して戦う。俺は水の呼吸の剣士だったから、教えてやれるのは水の呼吸だ!いいか、思いっきり吸い込むんだ。そうすると肺がバンってなって身体がグーわぁ~~ってなるから、そうしたらこう…!」
「……。」
師範が門下生をとったのは今いる子たちが初めてだったらしい。だけれど兎に角教えるのが下手で、みんな師範の言いたいことの半分も理解できなかった。
唯一、師範の一番弟子でもある年長者の少年は理解できていた。師範の擬音だらけの指導を噛み砕いてみんなに教えていた。もうどっちが先生やら分からない。
彼はもう四年も師範の元で修行を続けている。うち二年程は師範の言葉の翻訳に費やしたと嘆いていた。私は師範の指導を彼を通して聞いた。鬼のこと、鬼殺隊のこと、全集中の呼吸のこと。
私はこの修行で初めて木刀を握ったが、打ち込み稽古では才能があると褒められた。ただ見える数字を辿っただけなので、大したことはしていないが私の体質がとても便利な働きをすることを知った。
やがて兄弟子は最終選別へと行った。皆で応援して見送ったが、彼は結局帰ってこなかった。
後日、鬼殺隊の伝令鴉より、最終選別にて死亡したと手紙が届いた。
師範は酷く落ち込んでいた。
私達も信じられなかった。
誰よりも剣が上手くて、頭も良かった。勇気もあった。
そんな兄弟子が死ぬなんて。
でも師範は言う。最終選別とはそういう場所だと。
それで弟子の半分は恐ろしさで逃げ出した。
それも仕方ない、と師範は言う。
「リアネ…」
「はい。」
師範は黒く濁った三を胸に抱えていた。
兄弟子の死が未だに信じられないのは私も同じだった。
「君も怖ければ辞めてもいいからな?辞めたって、ここにずっといて構わないから…」
だから死ぬな、と師範は涙を流した。教え子が死ぬなんて辛すぎると。
だけど私は反対に最終選別を受けてみたいと思っていた。
心のどこかで死を探しているから、だから師範はあえて私に釘を刺すのだろう。