第10章 氷
さて、どうしたらいいだろう。
家族はいない。帰る家もない。
もう全て捨てて死んでしまいたいなあ。
みんなに会いたい。
その時どこにいたか覚えていないが、動けず踞った。
私が逃げ出さなければ、父は死ななかったかもしれない。
私が父と二人で出掛けたいと言わなければ、母と弟は死ななかったかもしれない。
それなのに、どうして私だけ生きているの?
何か神様の逆鱗に触れるようなことをしてしまったのだろうか。
どうして家族四人の命が奪われなければいけなかったのか。
私ではなく、父と母と弟でなければいけなかったのはどうしてだろう。
考えても分からないことをひたすらに考え求めるうちに、頭痛に襲われて具合が悪くなった。
その後のことをあまり覚えていない。
だけど、師範のところに結局戻った。どうしたら良いか分からないけど、切符だけはあったのでそれを道標にしていた。
師範はあの日、帰ってきた私をみて「おかえり」と言って抱きしめてくれた。
そうしたら、蛇口をゆるめたように涙が溢れて止まらなくなった。
帰っても数ヶ月は情緒が安定せず、何度か自殺を図り、その度に皆に引き止められた。隠れてやってもいつもなぜか見つかってしまった。
死んだら元も子もないと、それほど自分を責めるのなら家族に報いるつもりで何かに取り組んでみるように言われた。
親ならば、子が自ら命を落とすことを望むわけがないと。
そう言われても、何をしたら良いか分からなかった。私の手の届くところにいつもあったのは使い込まれた木刀のみ。
私は、皆になぜ鬼殺隊士を目指すのか聞いた。みんな口をそろえたかのように家族を鬼に殺されたと言った。
どんなに残酷な死に方をしたかも。それを聞いて思った、もしかしたら母と弟たちも鬼に殺されたのではないかと。
そういえば、そのあと葬儀に来た男の人は時代遅れにも刀を所持していた。彼は鬼を狩りに来た人だったのではと思った。
「鬼殺隊ってどうやってなるの?」
それから私の稽古が始まった。
最初の上京から三年が経ったころのことだった。