第10章 氷
私が居座るようになって一年が経った頃、弟子の中で一番年上の少年が「一緒に修行しないか」と誘ってきた。あまりにも暇そうに眺めていたせいかもしれない。彼は師範の一番弟子だった。
「私は…いいや。」
刀なんて今どき持つ人はいない。鬼狩りは皆、刀で鬼を滅するというけれどそんな人見たことないし。
「リアネはいいんだよ。剣士になんてならなくても。」
師範が言った。他の弟子たちには頑張れと励ますのに、私にはならなくて良いと。それはすこし寂しい気もした。でも師範は私には才能がないからと言ったわけではなかった。
ここに来て間もない頃、風邪をよくひいていた私が酷い咳をしたので肺が弱いと分かっていた。
鬼殺の技は呼吸を使う。普通の呼吸とは違うので、私にはそれが負担になると言っていた。
師範は、ただ笑って静かに見守ってくれた。
ある日の昼間。皆が近くの山へ修行へ行き、家には私と師範の二人になった時。そういうときはたくさんあったが、その日突然に師範は私を縁側に呼び出した。
「そろそろ君の話を聞きたいのだけど、いいかな?」
私はここに来てから自分の名前以外に身の上の話はしていなかった。他の子たちにもいろいろ聞かれることはあったが、何も答えなかった。
話したくなかった。自分でも情けなくなるから。
本当にこれで良かったのか、もう少し我慢してあの家にいるべきだったのでは。せめて父には相談するべきだった。いろいろとあとになって思っても、やってしまったことはどうにもならない。
だけどそろそろ誰かに聞いてもらいたいと思っていた。師範はそれを分かっていたのかもしれない。
私は自分の事をたくさん話した。師範は深く頷きながら一言も漏らさぬかのように聞いてくれた。
母と弟たちが死に、辛い時期の話に入ると涙を流してくれた。そして最後は師範が私を見つけて連れ帰った日に繋がる。師範はもう大泣きで、子供の私が戸惑う程だった。
私はもう涙なんて出ないのに。そう言えばいつから泣いていないだろう。
「リアネ、俺は思うんだけど、一度お父さんに会いに行ったらどうだろう?」
「え?どうしてですか?」
「うん、実はね…。」
私が来て少し経った頃、近くの村や町で人を探している警官が増えたことがあったという。何でも娘が家出して帰ってこないのだと。色白に青い目で金髪。年は13歳で背は高い。