第1章 異人の隊士
途中で激励と注意をしながらもどうにか5周を走りきった。
「よく頑張った!最後に速度をあげて追加でもう1周だ!ついてこい!」
俺は月城の返事を聞く前に速度を上げた。
全集中の呼吸で足の筋肉に酸素を行き渡らせると素早く動かせる。
後ろを確認すると、どうにか着いてきていた。
「もっと足に酸素を行き渡らせろ!頑張れ!」
「…!」
彼女の肺は限界だった。もはや返事をすることも不可能。
「これが終わったら昼餉にしよう!もう少しだ!」
俺が更に速度を上げると、月城も間をあけまいと必死についてきた。
「呼吸を意識することを忘れるな!!もっと速度を上げろ!今のままでは鬼の速さにもついていけないぞ!」
走り込みを終え、家に戻ってきた。月城は帰り道、一言も口を聞かなかった。
昼餉はゆっくりとらせよう。
「兄上、月城さん。おかえりなさいませ。昼餉の準備ができていますよ。」
「そうか!ありがとう!俺は水浴びをしてくる。月城も汗をかいただろう?」
「はい…体を拭きたいです。」
互いを見合わせると砂埃を浴びてかなり汚れていた。
「俺は外で浴びてくる。千寿郎、月城を風呂場に案内してやってくれ。」
「はい。月城さん、こちらです。」
千寿郎が月城を案内するのを見届けてから庭の水道で直接水浴びをした。
鍛錬のあとは気持ちがいい。
胴着の上半身を脱いで、そばにあった柄杓を軽くすすぎ、水を溜めて背中に何度かかけた。
「兄上!手ぬぐいをお持ちしました。」
千寿郎は急いで戻ってきたようだ。
手ぬぐいを受け取って体を拭く。胴着は着替えた方が良いな。午後の鍛錬は道場で行うとしよう。
縁側から上がると千寿郎は自然と手を出したので、使った手ぬぐいを渡した。
「部屋で着替えてくる。」
「はい。…あの、兄上。」
「ん?」
自室へ向かうところだったが足を止めて振り返った。
「俺も、午後は稽古を受けてもよいでしょうか。」
千寿郎はなぜか申し訳無さそうに言った。
断るわけがないのに。
「ああ!一緒に鍛錬しよう!」
「はい!」