第1章 異人の隊士
「月城!出身はどこだ?」
「生まれ、育ちは兵庫です。」
「そうか、遠いな!だがてっきり日本ではないのかと…」
「よく言われますが、父は日本人なんですよ。母が西洋人で、私はほとんど母に似たようです。」
「なるほど!最初に君に話しかけた時は言葉が通じるか心配になったものだ。」
「そうでしたか。でも大丈夫だったでしょう?」
こちらに向けられた青い目が少し温かみを帯びたように感じた。やはり緊張からくるものだったのだろうか。
「うむ!心配無用だったな!…そういえば昨日の腹の傷はどうだ?」
「平気です。自分で手当もできましたので。」
「そうか!それは良かった!」
………。
……。
道を歩く音だけがいつもより大きく聞こえた。
草履が砂を踏む音、革靴の硬い踵が鳴らす独特の音。
「ご両親は、今も兵庫か?」
月城は少し間をあけて口を開いた。こういう場合、大抵次の言葉の予想はつく。
「両親はどちらも死にました。墓が兵庫に…」
「そうか…。俺も幼い頃に病で母を亡くした。」
月城がこちらに顔を向けたので、俺も見合わせた。
「私も、幼い頃に母を亡くしました。どうして亡くなったのかは分かりませんが、今思うと鬼の仕業であるような気がしています。葬式で顔を見ることも叶わず、その後現れた知らない男の人は刀を所持していました。父がその男の人と話した後、泣き崩れていたのを今も覚えています…。」
それが彼女の入隊動機だろうか。
遠い西の地にも鬼が時々出ることは報告があった。そういえば昔、父上が柱であった頃にそちらの方へ任務で行ったと聞いたことがあったな。
「鬼は残虐だ。罪なき者の命を脅かされることはあってはならない。」
「はい。」
「共に頑張ろう!俺が君を今より強くしてやる!」
「はい!」
だがふと思った。
彼女は、強さを求めているのだろうか。
なんとなくだが、死を求めているような気がした。
町の外についた。小さな町だ、外周を走っても大した距離ではない。
「まずは呼吸を意識して走るんだ。ゆっくりでも構わない。」
「はい。」
「では始め!」
土を蹴って駆け出した。
月城はゆっくりと走るが歩幅が大きいので進みは順調。
俺も横について走った。