第10章 氷
たくさん時間が過ぎても私から悲しみが消えることはなかった。何をしても笑えなくなった。自分の部屋で眠れなくなり、いつも父と母の寝室で眠った。
父は…私のためを思い、やがて再婚した。
でも私に必要なのは母親の代わりではない。たった一人の母と、弟二人だ。
でも、父が好きな人なら、と我慢した。我慢したのが良くなかった。
継母は家にずっといた。だから女中は不要だと追い出してしまう。もう誰も私に寄り添う人は居なくなった。女中は家を出る日、私に言った。
「我慢をすることはないからね。辛くなったら逃げ出しなさい。」
そう言って彼女の行き先が書かれた紙とお金を少しくれた。いざというときのために隠しておきなさいと。住所は東京だった。
「ありがとう。でもお父様のためにもう少し努力してみる。」
あの時の私はそう返事した気がする。
もう少し、頑張れなかったかな…。
継母は残った私に辛く当たってくる人だった。
父が仕事で不在にすることが多いので寂しかったのだと思う。私は父に似ていないし、金髪で目も青いので品がないとよく言われた。見ていると腹が立つとも。怒ると手がつけられない人で、家にあるものを投げてよく壊された。
ぶつけられそうになったこともある。
たまに帰ってくる父は変わらず私を可愛がってくれるが、継母と仲良くできないことを伝えても、私がもっと寄り添って努力するべきだと言った。いつまでも悲しんでいるだけでは駄目だ、前に進めと。
一生懸命、自分なりにやったけれど。でも駄目だった。限界はある日突然きた。父が長期不在の時、継母はまた物に当たり散らしていた。その継母が私に言った。
「あんたさえいなければ、私達は幸せになるのに。」
例えるならそう、糸がプツンと切れたよう。