第9章 継子
そこに帰る場所がある限り、どんな苦境だろうと生き抜こうと努める。それはそういう相手がいなければ分からないものだと、宇髄は言った。
実際に彼自身もそうだと。
「宇髄の言うことも分かる。俺も亡き母上との約束がある!その言葉を胸にいつも励んでいる!」
「なんか違ぇんだよなそれは。母ちゃんも大事だったろうけど…。」
「家に帰れば千寿郎も父上も待っているしな!千寿郎のために帰っているぞ!」
「つってほとんど帰ってないだろ。」
「むう…!」
やはり俺にはよく分からないな。千寿郎も父上も俺にとって大切な家族だ。どう違うのかなんて分からない。
仮に彼女が恋人だったらどう違うのだろう。想像すると、まず思い出したのは千寿郎を抱きしめている姿だった。その手が俺に差し出されたあの夜。心から満たされた気がした。
それが今はどうだ。大きな穴が空いたようだ。以前のように稽古だと呼びつける必要がなくなり、俺はほとんど会うこともなくなるだろう。
きっと千寿郎からの手紙で様子を知ることになる。何も全てが絶たれたわけではない。連絡をとりたければいつでもつく。
…本当にそうだろうか。
今回のように知らぬ間に任務で負傷することもある。
怪我で済むならまだ良い。まだまだ階級も低いのだから、死ぬこともある。お互い様ではあるが、俺よりずっと死に近い。もしも彼女が鬼との戦いで命を散らすとき、その知らせは俺までくるだろうか。それも千寿郎から伝わるのだろうか。
「なあ宇髄。」
「ん?」
俺には分からないことの方が多い。
「このよく分からない感情を君の言うように扱うなら、俺は何をすればいい?」
「そりゃあ互いに気持ちを確認して、時間をかけて育むこった。」
確認して…。
「よし!聞いてくる!」
「ちょちょちょちょ!待てコラ!」
宇髄は、病室へ戻ろうとする俺の羽織を引っ張って制してきた。全く今日の彼は本当に変だな。確認しろといったり待てと言ったり。
「なんだ、まずは確認なのだろう?」
「そりゃあそう言ったけどお前、なんて言って確認する気だよ。」
「?そのままだ。俺は月城のことをどうやら気になっているかもしれんが、君はどうだ!?と。」
「うわ…うっざ!俺が女ならハァ?てなるわ。」
「!?そう…なのか?」
流石に今のハァ?の顔はかなり衝撃だぞ。