第9章 継子
「誤解を招く言い方はよせ。彼女は伸びしろがあると思ったから継子に誘ったのだ。」
「へぇ〜」
宇髄は聞いているやら、いないやら、分からない返事をして席を立つと病室を出て行った。胡蝶に用があって来たらしい。俺は生暖かくなっている椅子に座り月城を見やる。すぐに目が合った。穏やかな眼差しだ、千寿郎に向けるものと同じで宇髄に向けていたものとは違う。それもこれっきりになるかもしれないな。とても言い難い話だが、命に代えられない。
「月城。」
「はい。」
月城は俺が口を開くまで静かに待っていた。
「不本意だが、君には継子を辞めてもらう。」
月城の青空のような瞳が一瞬曇った気がした。それでも彼女は感情を顔に出さなかった。
「胡蝶から君の肺の状態について話があってな。このまま俺から稽古をつけて鍛錬を積むと、君の肺は耐えきれないと言われた。気づかずにこれまで無理な指導をして申し訳ない。」
「いえ!とんでもございません!」
俺が頭を下げると月城は膝にかけていた布団を剥いで、ベットの上で三つ指をついた。
「これまで時間を割いて頂いたにもかかわらず、ご期待に沿えず、大変申し訳ございませんでした。」
月城は頭を下げたままなかなか上げようとしないので、体ごと起こした。
「君は十分に才能ある人だ。俺は一緒に見つけてやれなかったが、きっと君に合ったやり方はあるはずだ。」
「はい、教えていただいたことは忘れません。日々精進し、己の呼吸を見つけ出します。」
月城の目には最初の頃には無かった強い意志が宿っていた。きっと大丈夫だ。師がいなくとも上手くやっていくだろう。
「それと、月城が良ければだが、今後も時間があれば千寿郎に会ってやってほしい。」
「え…いいのですか?」
この話を始めて一番彼女の感情が動いた。千寿郎の力はすごいな。
「俺が師でなくなろうとも、千寿郎にとって君は姉のような存在であることに変わりはない。君にとってもそうだろう?」
月城はまた深く頭を下げて、ありがとうございますと何度も言った。それからゆっくり顔をあげて…。
「師弟ではなくなっても、私はいつも炎柱様の武運長久をお祈り申し上げます。」
それを聞いた時、何故か腹の底に鉛がのしかかるような重さを感じた。