第9章 継子
万人が口を揃えて才能があると認めなくとも、努力こそすれば報われるということを。そして何より、彼女に強くなって欲しかった。
異人の見た目のせいか、初めて出会った時も周りから浮いていて、任務が終われば傷の痛みに耐えながら一人で下山していく孤独な隊士。刀の軌道こそ美しいものの、その青い瞳は生を宿していなかった。どこか死を求めている、そう感じた。だから稽古をつけて、とにかく強くなる努力を続けることを教えた。そうすれば、少なくともその間は彼女は生きることができる。生きる理由を与えられる。
「分かった。残念だが、胡蝶の言うとおりだ。月城に話してみよう。」
すんなりと聞き入れたことが意外だったのか、胡蝶は大きな目をより一層見開いていた。
「私から説明することもできますが、良いのですか?」
「俺の弟子だ。師から話すのは当然だろう。」
それもそうですね、と俯きながら彼女は言った。
どこか安堵しているようでもある。胡蝶も結局は月城を心配して言ってくれたのだ。
「胡蝶、言いづらいことだったろうが、ありがとう。」
「…いいえ。」
胡蝶はもうこちらを見ずに花壇に目を向けた。俺は重い足で再び病室へ戻る。すると今度は意外な、というか、なぜ君がというか、とにかく意外な組み合わせが病室の奥にあった。
その後ろ姿、すぐに分かったぞ宇髄。刃の大きな刀を二本背に担ぎ、元忍だというのに体格は非常に良い。一体俺の弟子になんの用があってベット横に座って話しているのだろう。
何故だが胃の奥がむかむかとしてきた。腹が減るには早いというのに。
「宇髄!!!」
「わっ!!」
近くで呼ぶと酷く驚いていた。耳元で大声出すなと言われたが、耳元ではなかったぞ。
「君たちは知り合いだったのか?」
「いーや。今知ったところだ。」
「はい、今さっきです。」
「こいつ、派手で目立ってるだろう?」
宇髄はどこか楽しげに月城を親指で指すが、彼女の方は小首を傾げた。
派手なやつにはとりあえず声をかけるのが宇髄だ。派手の基準はよく分からんが、月城はそれを超えたのだろう。
「つーかなんだ?お前らも知り合いなのか?」
宇髄は月城に聞くと、彼女は俺を手で指しながら師範ですと答えた。
「また派手な女の継子かよ!お前の趣味が分かってきたぜ。」