第9章 継子
「失礼する!」
俺は一言置いて胡蝶の後についていった。
「任務中だと聞いていたが…」
「はい。只今戻ったところです。」
胡蝶は庭に出て花壇の前で足を止めた。
「先日の、動悸がするなどの症状はどうですか?」
「うむ!以降はなんともない!気の所為だったのかもな!」
笑い飛ばしていると、胡蝶もそれはよかったと小さな笑みを見せたが、すぐに真剣な表情に変わった。
「月城さん、煉獄さんの継子なのですよね?聞きましたよ。」
「そうだ!生まれ持った才能を活かして戦う、彼女は良い剣士になると思うぞ!」
「そうですね、もしも彼女が他の隊士のように健康な身体を持ち合わせていたのなら…」
妙に引っかかる言い方に良い気はしなかった。
「胡蝶、言いたいことがあるならはっきり言ってくれるか?」
「でははっきり言います。彼女は継子には向きません。すぐにでも師弟を解消してください。」
「なぜ?」
「月城さんは幼い頃に肺を患ったと聞きました。その後遺症で呼吸器の機能が一般隊士と比べて遥かに弱いです。普通に生活するには問題ないですが、鬼殺隊として、鬼を滅するための全集中の呼吸を使うこともままならない状態です。頑張って鍛錬されていたようですが、今以上に肺が良くなることはありませんし、全集中の常中なんて習得は無理でしょう。それに柱は忙しく時間も十分にとれません。呼吸が使えない隊士をなんとかしようとするよりも、既に呼吸を使いこなす隊士を育てるほうが効率も良いです。」
全集中常中は確かに継子となるものならば習得は必須。だが条件付けされているわけではない。月城は己の肺の弱さを補う程の能力を持っている。上手く使い分けができれば問題ないと思っていたが。
「煉獄さん、このまま鍛錬し続けると、彼女の肺は耐えきれず呼吸ができなくなって死にます。それでも継子をさせるのですか?」
胡蝶は言い方を変えてきた。それを聞いて、呼吸に苦しむ月城の姿が脳裏に浮かぶ。違う、俺はそうまでして育てたい訳ではない。
「そうか。彼女の肺が人より弱いことは知っていたが、まさかそこまでだったとは…」
胡蝶は大袈裟に言っているわけではない。事実を話しているまで。その事実を俺は見抜けなかっただけだ。いや、たとえ知っていても覆したかったのかもしれない。