第9章 継子
そうかもしれんが、そんなことは千寿郎には口が裂けても言えない。
「俺は万事快調だ!!」
「そうですか?それならよいのですが…。俺ちょっと姉上の様子を見てきます。」
小走りで廊下をゆく千寿郎の背を見ながら申し訳なく思った。兄としても師としても不甲斐ない。任務の前に胡蝶に見てもらおう。病は早期発見が鍵と言うしな。
俺は昼餉を早々に済ませて、逃げるように家を出て蝶屋敷へ向かった。
ここは任務で傷ついた隊士を癒やし、機能回復訓練まで担っている。忙しい胡蝶に代わって、治療を手助けする少女も何人かいるが…、
「胡蝶はいるか!」
大きな声で言ったんだがな、誰も出てこない。
庭をぐるりと周ってみるも、蝶が静かに飛ぶだけだった。
「胡蝶!!」
「はいはい、聞こえていますので静かにしてください煉獄さん。」
胡蝶の声がどこからともなく聞こえた。探すと、どこの部屋か知らないが窓から顔を出して手を振っていた。
「こっちですよ〜。」
「おお!そこか!」
「今日はどうしたんですか?」
「実はな胡蝶に診察を頼みたい!病かもしれん!」
胡蝶はそう聞いて、驚いて俺を診察室に通した。
「では、まず症状について教えて下さい。」
「うむ!ある時突然、動悸が早まり息が苦しくなった!それから体が熱くなったり、手指の痺れがあったな!」
胡蝶はうーんと唸ってから、今度は触診に入った。首に腫れがないか、脈は正常か。
「熱も今はないですね…最近眠れていますか?」
「睡眠はしっかりとれている!」
「お食事は?」
「よく食べている!昨日は御馳走だったぞ!千寿郎が…」
「自律神経の乱れかと思ったのですが、規則正しい生活をされる煉獄さんに限ってそんなことはなさそうですね。」
「…そうか!」
「少し様子を見てみましょう。何度も起きるようでしたら、いつなのか、その時の体調はどうだったかも教えてくださいね。」
「うむ!承知した!」
結局何も分からなかったが、あれからかなり落ち着いたこともありそこまで気にしなくなっていた。
数日して、千寿郎から月城は無事回復したと手紙がきた。
新しい日輪刀も届き、任務へ出るとあった。きっと寂しいだろう。だが書かれていることは日輪刀の美しさと、それについて熱く語る刀鍛冶の人がとてつもなく印象的だったことだ。