第9章 継子
間もなくして医者が俺を部屋に呼んだ。悪いがもう少し千寿郎には部屋の外で待ってもらう。
月城の布団の横で診察道具を仕舞う医者の隣に腰を下ろす。
「先生、どうだろうか。」
顔馴染みの医者は穏やかな表情で応えた。これが大丈夫であるという答えだ。
「感染症を起こしているが、抗生物質を投与したから、これでよくなるよ。」
「そうですか。ありがとうございます!」
それから、今後の傷の手当の仕方について教示を受け、高熱が出たときの解熱剤ももらった。あとはひたすらに休むしかないとのことだ。
俺はいつまでも座っている月城に横になるよう言って聞かせた。
医者を見送って、もう一度月城の部屋へ。今度は千寿郎も一緒に入った。
千寿郎は大層落ち込んでいた。
「俺のせいで…申し訳ありません!」
「私の処置が甘かったせいですよ。そう気にしないでください。」
月城は温かく穏やかな声で言った。何故だか声色こそ違うものの、母上と似ていると思った。
きっと彼女は千寿郎に話すとき、母が子に話すようにするからだ。
「先生が薬を打ってくださったから、暫く休めば大丈夫とのことだ。」
落ち込む千寿郎の背に手を当てて俺からも説明するが、まだ俯いたままでいた。
「千寿郎さん…」
月城は布団からするりと手を出して、千寿郎の膝の上で結ばれた拳を包むように乗せた。
「傷が膿んでしまったので、さらしを頻繁に変えなければなりません。ですが、背中なのでどうしても処置しずらいのです。とてもお見せできる状態ではないのですが、手伝ってもらえませんか?」
あれほど見せられないと先程までは言っていたのに。
だがこのまま落ち込ませているなら、確かに千寿郎には手伝わせて共に治療をしていくほうが良いかもしれない。傷の様子がわかる方が安心するだろうからな。
「は、はい!お任せください姉上!」
千寿郎はやはり頼りにされると元気を取り戻した。
月城は安心したように微笑んでいた。
傷を負っても弟を想ってくれる彼女には感謝しかない。
昼になると、鎹鴉の伝令があった。夕刻前には家を出なければならないか。
昼餉をとるために居間へ行くと、千寿郎は月城のために粥を作って持っていくところだった。
「あぁ、俺が持っていこう!」
「いいのですか?」