第9章 継子
これはさらしを解く前から酷そうだ。
結びは前にあるな。解けるか聞くと、結び目を解いて布の端を俺に見えるように出した。ゆっくりと解き、体の前を通る時は月城に渡す。そんな気はもちろんないのだが、背だけ見るように気をつけた。少しずつ露わになる傷。完全に見えなくとも良くないことはすぐに分かった。
「傷は洗ったか?」
「洗ってはいないです…消毒はしました…。」
「むぅ…。酷く化膿している。熱もこれのせいだろう。」
さらしを全て解き、貼り付いた綿紗を取ると膿で剥がれにくく痛みもあったのだろう、体を震わせていた。
破傷風の危険もある。これは勝手な処置はできないな。
「蝶屋敷に連れて行く!」
「え?なんです?」
「蝶屋敷は蟲柱の胡蝶のいる屋敷だ。薬学に精通していて、傷を負った隊士の治療もおこなっている。彼女なら治せる!」
「でもどう…」
「案ずるな!俺が蝶屋敷まで背負っていく!」
「…!!いっ嫌です!結構です!」
「何故!!」
「そんなことをすれば…千寿郎さんが心配します!」
彼女の言い分はこうだ。自分が蝶屋敷で治療を受けるとなれば、千寿郎は己を責めてしまうだろう。それに加え、俺は任務で不在となれば、一人きりの時間が長くなり、気分が滅入ってしまうかもしれないと。
千寿郎も煉獄家の男子だ。弱くはない。だが自分を責めるところはあるから、それは俺も心配だ。しかし、だからと言って月城を危険な状態にしておくこともできない。
「この村にも医者がいる。俺も幼い頃は世話になったかかりつけ医だ。その医者を呼んで見てもらおう。それでも手に負えないとなれば、蝶屋敷に行ってもらう。良いな?」
月城はすんなり承諾した。これより他はないと彼女も理解しただろう。俺はすぐに医者を呼ぶため部屋を出た。ばたばたとしていたので、朝餉の準備を終えた千寿郎が追ってきた。
「兄上、どうされたのですか?姉上は…」
「うむ。熱があるので医者を呼んでくる!千寿郎は先に食べていてくれ。」
返事もそこそこに草履を履いて医者を呼びに走った。
診療の間、俺と千寿郎は部屋の外で待っていた。千寿郎は自分の手をずっと握っていた。心配なのだな。
俺は千寿郎の肩に手を置いて笑みを向けるが、それだけで気分が晴れることはなかった。