第9章 継子
「傷はどうだ?」
微かに月城の声が聞こえた気がするが、何と言っているのか聞き取れない。
「よく聞こえん、入るぞ。」
少し待ってから戸を開けると、月城は慌てて起き上がって正座をしたところだった。捲れた裾を直したり髪を直したりしているが、顔は下を向いたまま。
「すみません、少し具合が悪くて…。」
「そうか…。大丈夫か?」
彼女の前に座り顔を見ようとするが逸らされる。大丈夫だが、寝起きで顔も髪も汚いので見ないでほしいと言っていたが、それでは具合の程度が分かりにくい。
「傷はどうだ?痛みは?」
「少しありますが、それほどのものではありませんので…」
そうは言うものの、背中の様子も見せてもらえない。どれほど見ようとしても必ず俺の正面に向き合うように移動してくる。それに少し呼吸が荒い。もしやと思い額に手を当てようとするが何故かそれも躱す。仕方ないので多少強引にはなったが、片手で顎を押えて頭を固定し、もう片方の手を額に乗せた。
やはり熱がある。それも高熱だ。
「月城…」
「…はい……。」
「傷を見せなさい。」
「………嫌です。」
もう発熱は俺にバレたので顔を上げて拒否してきた。
熱で白い肌が赤く火照っている。
「だが熱が出ている!傷のせいかもしれないだろう!」
彼女はこういうときは酷く頑固で困ったものだ。具合が悪い人を俺だって無理矢理押さえつけるようなことはしたくないのに。
「傷を見るだけだから、脱ぎなさい!」
「な…なんてことを言うのですか!わ、私は嫁入り前なのですよ!」
「なら千寿郎に見てもらうぞ、良いか?」
「……。」
どうだ、千寿郎には見せられんだろう。そういう状態になっているだろう。適当な事を言って断ろうとしているのはわかっている。だが、これを見逃せば下手をすれば死んでしまうかもしれない。
月城は黙ったまま動かなくなった。俺が千寿郎を呼ぶフリをすると、着物の袖を引っ張ってそれを制する。
「それは、ご勘弁を…」
「なら背中の傷を見せろ。」
「…はい…。」
ようやく背中を向けた。もう血が滲んでいる。上半身だけゆっくりと肩から滑るように布が落ちていく。雪のように真っ白な肌にさらしが巻いてあるが血まみれだ。ゆっくりと脱ぐのは痛みのせいだ。俺は傷に触らないように着物を脱がすのを手伝った。