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桜月夜【鬼滅の刃】

第9章 継子


昨夜の一件は、鎹鴉から報告を受けたときは寿命が縮む思いだった。まさか、我が生家の側に鬼が出るとは!
駒沢村まで距離のある位置にいたが、その場は他の隊士に任せ、全集中の呼吸で出来うる限りの速さで向かった。
鬼を見つけたと同時に、弟子の月城が千寿郎を守る姿も目に入り、あとは考えるより先に身体が動いた。
強い鬼ではなかったものの、千寿郎を守るために月城は背に傷を負った。彼女はなんでも大丈夫で片付けるところがあるので、心配だ。
だが仕事を片付けて家に寄ると、先刻鬼に襲われたことはまるで幻だったのかの如く、二人は楽しげに夕餉の席を準備していた。それも疲れもあっただろうに大層な御馳走ばかり。俺の誕生祝いをしたかったと。温かい食事の席があることを幸せだと思った。
月城の具合はあまりよくなさそうではあるが、千寿郎に心配させまいと気丈に振る舞っている。それなら俺からは何も言うまい。それでも千寿郎は鬼に襲われて彼女が怪我を負ったのは、自分のせいだと肩を落とした。
月城はそんな千寿郎を抱きしめていた。
俺も幼い頃、母に抱きしめられた。父にも。だからその動作がどんな心も落ち着かせてくれることを知っている。彼女もきっとそうだったのだろう。きっと、自分の弟たちにしてきたことを千寿郎にも同じようにしてくれているのだろう。何故なら、千寿郎に向けられる月城の眼差しは、他の者に向けられるそれとは違うからだ。特別だと思う。その特別な眼差しが俺にも向けられたときは、こそばゆいが嬉しかった。だからたまらず二人を抱き締めた。
夜はまだ続く。この後も出なければならない。
この腕を解かねばならないことがもどかしかった。





翌朝、俺は家に戻った。少し休んで、また出なければならないが。
湯浴みで汗を流し、着物に着替えた。千寿郎は朝餉の準備をしているところだった。

「おはよう!千寿郎。」

「あ、兄上!お戻りだったのですね。お帰りなさい。」

「うむ!月城はまだ起きないか?」

「あ…そうですね。」

千寿郎の顔に不安が出ぬうちに、俺が様子を見ると告げた。
昨日の傷は大丈夫なのだろうか。それが心配だった。
彼女に貸している部屋へ行き、外から呼びかけた。

「月城、起きているか?」

だが物音がしない。まだ眠っているのか…。

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