第8章 賑やかな祭りではご用心を
結莉乃
「んー…胤晴さんは顔が整ってるからシンプルな方が良いんだよなぁ…」
しゃがみ込んで一人呟きながら浴衣を選ぶ結莉乃を見て胤晴は心が暖かくなるのを感じる。こんなに一生懸命に悩んでくれるのが嬉しかった
胤晴
(しんぷる…とはどういう意味だ…?)
自分の世界に入り込んでしまっている結莉乃には現代で使われている言葉かどうかを気にする事は出来なくなっていた
結莉乃
「よし、決めた!…これにします!」
指をさしたのは紺地に白黒赤の縦線が入ったものに黒の帯。胤晴はそれを手に取ると結莉乃に感謝を述べた。だが、結莉乃はじっと胤晴を見て目を離さなかった
結莉乃
(やっぱり持ってきて良かった)
結莉乃は好奇心に勝てなかった。自身が持ってきたヘアクリップを胤晴につけてみる、というものを。だから、唐突ではあるが注意する様な声を上げてみる
結莉乃
「もう、胤晴さんは格好良いんですし鬼の王なんですから目見えた方が良いですよ。んー…ほら!」
小さい透明な花の形をしたヘアクリップを取り出し、失礼しますと告げてから胤晴の前髪を留めてみる。突然の言葉と行動に戸惑いなすがままになってしまった胤晴
胤晴
「な、何だこれは…」
結莉乃
「こっちでも良いですよ!」
花のクリップを外すと今度は熊のついたヘアゴムで前髪を結んでみると、鬼王の額の上に可愛らしい熊が座った
結莉乃
「ふ、ふふ…っ」
胤晴
「おい、楽しんでるだろ」
結莉乃
「そ、そんな事…ふふ…ははっ…!」
胤晴
「思い切り笑っているじゃないか」
端正な顔には少し不釣り合いな愛らしい熊の存在がギャップを生み出し、結莉乃は可愛くなってしまった。
恐らく此処に来たばかりの結莉乃はこんな事が出来る状況になるなんて思ってもみなかったし、想像もしていなかった。結莉乃がここまで鬼王に対して行動に出られるのは、胤晴の優しさのお陰だろう