第7章 馴染みゆく彼女の存在は大きくて
胤晴
「君の言う通りだな。…ありがとう」
結莉乃
「いえ!」
結莉乃は胤晴の両頬から手を離して笑った。
胤晴
(屋敷には人間を嫌っている者も多い。だが、あいつらが彼女を受け入れるのは…こういう所なのかもしれないな)
他の人間とは違う、そう思わせる結莉乃の言動と心。それを妖怪である彼等は読み取り受け入れていたのだろうと胤晴は思った
胤晴
「そうだ、これ」
結莉乃
「?」
何かを思い出したように胤晴が懐へ手を入れると黒い鞘に収まっている短刀が現れた。胤晴はそれを結莉乃へ渡す
結莉乃
「これ…」
胤晴
「短刀はまだ持っていなかっただろう」
そう言われて漸くこれが自分に与えられる物だと結莉乃は理解する。大事そうに両手に短刀を乗せる。柄巻は赤く鞘は黒…まるで
結莉乃
「胤晴さんみたいですね、この短刀」
胤晴
「え…」
結莉乃の言葉に胤晴は僅か目を丸くして固まる。結莉乃は自分がおかしな事を言ってしまったのかと慌てる
結莉乃
「す、すみませんっ」
胤晴
「いや、違う。すまない。…刀を新調しようと見に行った際、風月に俺にはこの刀が合ってると言われたんだ。それで君に俺みたいだと言われて、少し驚いた」
結莉乃
「そうだったんですね…え、でもこれ…貰って良いんですか?」
胤晴
「嗚呼。君に使って欲しい」
結莉乃
「風月さんの形見…なんじゃ」
胤晴
「選んでもらっただけで形見ではない。それに、その刀が君を守る術になれるのなら嬉しい」
結莉乃
「…胤晴さんが持っていた物なんて、守りの強度高そうですね」
持っていた本人がそう言うのであれば有難く貰おうと結莉乃は思い彼を見上げ、そんな事を述べる
胤晴
「であれば良いな。使える物は全て使ってその身を守るんだ。…刀も俺達も」
結莉乃
「胤晴さん…」
力強さを感じる紅い瞳を結莉乃は見詰める。守られてばかりはいられないが全く守られずに戦うのは無理、そう思いつつもどこかで迷惑をかけずに…と考えていた結莉乃の心を胤晴の言葉が軽くしてくれた様に感じた