第7章 馴染みゆく彼女の存在は大きくて
胤晴が馬から降り、乗せた時と同じ様に結莉乃へ手を差し伸べる。その手を取ると優しく地へと降ろしてくれる
結莉乃はゆっくりと木や花に囲まれた湖へと近付く。綺麗さに結莉乃は息を吐き出す。そんな結莉乃の隣りへ静かに胤晴が立った
胤晴
「この場所…風月が好きだったんだ」
結莉乃
「風月…さん?」
胤晴
「嗚呼。…俺が生涯を共にしようと決めた女性だ」
若葉と眞秀から聞いた女性の名前は風月さんというのか、と結莉乃は思っていた。と同時に自分に彼から切り出してくれるとは結莉乃は思っていなかった
胤晴
「風月は気が強くて納得出来ない事を嫌う奴だったが、優しかった」
結莉乃
「素敵な人だったんですね」
胤晴
「嗚呼。…だが、俺が遠征中に人間に攫われた。上安曇の領主に反抗したとかでな」
結莉乃
「酷い…たったそれだけで」
胤晴
「すぐに向かったが…俺は間に合わなかった。俺が見付けた時には彼女は血塗れだった。そして俺を見付けて笑った」
風月
『胤晴様…笑って生きて』
胤晴
「そうして彼女は息絶えたんだ。…俺が間に合っていれば」
その時の事を思い出して眉間に皺を刻む胤晴を見て結莉乃は眉を下げる。それでもそんな悲しそうな表情を見ていたくなくて結莉乃は、背の高い彼の頬へと両手を伸ばして包み込む
結莉乃
「笑って下さい、胤晴さん。…風月さんにその顔見られたらきっと怒られちゃいますよ」
胤晴
「……っ」
見下ろした先で優しく笑みを浮かべる結莉乃の行動に胤晴は驚いたものの、以前彼女に笑い方を教えてもらったのを思い出す。胤晴は風月程に強くて優しく包み込める女性はいないと思っていた。だが、結莉乃は知らない世界に来ても強く、その世界に順応しようと努力し包み込む優しさを…風月以上の女性がいた事に胤晴は驚いた