第7章 馴染みゆく彼女の存在は大きくて
慎太
「くそ…!」
結莉乃
「うっ…!」
徐々にその靄は結莉乃の身体に巻き付き、口を覆われ言葉を発せなくなる。そして、結莉乃の身体はゆっくりと人型異形に吸い込まれてしまった
眞秀
「なっ……嘘だろ」
慎太
「取り込まれたのか…?」
初めての事に二人は目を丸くして驚き、浅くなる呼吸を落ち着けようとする。そして、再び助けようと動き出すものの相変わらず黒い靄に邪魔されて近付く事が出来ない
結莉乃
「……此処は…?」
一方、異形に吸い込まれた結莉乃は真っ暗な空間へと立っていた。どこを見ても真っ暗な空間に結莉乃は閉塞感を覚える
結莉乃
(苦しい…何ここ…苦しくて、何故か悲しくなる)
死んだ、その考えは結莉乃には無かった。それを考えられない程の苦しさと悲しさが湧き上がってくるからだ
「ドウ…しテ」
結莉乃
「……?」
歪な声が結莉乃の耳へ届く。この歪さは間違いなく異形のもので…結莉乃はその声を探るように真っ暗な空間を見る
「どう、シて…」
見付けられない歪で悲しげな声に向かって結莉乃は声を上げた
結莉乃
「どうしたの?」
その声に反応したかのように真っ暗な空間に淡い光が浮かび、その中で先程の人型異形が膝を抱えて座っていた
異形
「ボク…たち、ハ…妖怪二…なリた…カッタ、だケ…なノ二…」
結莉乃
「…え…?」
普段は殺すとか物騒な言葉を吐き出している異形の初めて聞く言葉だった
異形
「皆、ミたイに…生きタい…だケ、ナの二……」
結莉乃は複雑な気持ちになった。
怖いから、それだけで倒していた異形だったがこんな事を思っていたなんて…と。だが同時に生きたいからと誰かの命を奪うのは、やはり違うと思った
結莉乃
「皆…生きたいのは一緒だね。でも、誰かの命を奪ったからって…貴方が妖怪になれるとは限らない」
異形
「なレル、かモ…しれ、なイ…」
結莉乃
「きっと…なれないよ」
酷い事を言っているかもしれない。だが、結莉乃にはそれ以外に何を言ってあげれば良いのかが分からなかった