第6章 慣れは非日常を日常へ変えていく
結莉乃
「お待たせしました!」
慌てて草履をはいた結莉乃は玄関の門前に立っていた八一に声を掛ける。すると、八一は結莉乃に不満気な表情を向けた
結莉乃
「えっと…何か?」
八一
「気に入らない」
結莉乃
「何か気に障る事でも…」
八一
「天音には砕けて話すのに俺には敬語なの。気に入らない」
結莉乃
「えぇ…?」
まさか八一がそんな事を気にするなんて思っていなかった結莉乃が戸惑った様な声を出すと、顔を背けて歩き出してしまう。結莉乃はそんな八一を追い掛けて少し後ろを歩く
結莉乃
「あの…敬語じゃなくても良いって事ですか?」
八一
「嗚呼。じゃないと腹立つ…ほら、隣来なよ」
結莉乃
「あ、うん!」
結莉乃が促されて八一の隣を歩き、ちらりと彼の様子を窺うと形の良い唇が尖っていて結莉乃は少し驚く
結莉乃
「ふふっ…」
八一
「何笑ってんだよ」
結莉乃
「私の中で八一くんはいつでも余裕で笑ってる印象があったから…ふふ、そんな拗ねた顔もするんだなって意外で」
八一
「別にそんな顔してない」
結莉乃
「え、してるよ!唇がこーんな尖ってる」
最初こそ二人で出掛ける事に戸惑っていた結莉乃だったが、表情と話しやすい空気感に笑い声も増え冗談も出る。そこまで出ていないが少し誇張して唇を尖らせてみれば、八一の細長い指が結莉乃の唇を摘んだ
結莉乃
「むっ!?」
八一
「そんなに尖らせてると今度は唇で摘むよ」
結莉乃
「ふみまへん…」
八一
「ははっ…何言ってるか分かんね」
唇を摘まれている事により上手く話せない結莉乃を笑うと、八一は指を離してまた歩き出した。結莉乃は小さく抗議をしつつも珊瑚色の髪を揺らす八一の隣に並んだ