第6章 慣れは非日常を日常へ変えていく
翌日─…
稽古をつけてもらっていた結莉乃は、天音と並んで縁側に座り休憩をとっていた。
結莉乃
「あ、そうだ!」
天音
「ンだ突然、うるせェな」
結莉乃
「ごめんごめん。あのね、天音くんのお陰で昨日はしっかり動けたの」
天音
「腕に怪我してただろーが」
結莉乃
「あれは…」
その鋭い突っ込みに結莉乃は包帯が巻かれた腕を着物の上から触れる
天音
「隙見せたんだろ。ったく、隙見せねェ様にじゃなかったのかよ」
最もな事を言われて結莉乃は一瞬、しょんぼりとするがすぐに顔をぱっと上げて嬉しそうに笑う
結莉乃
「でも、本当に動けたの!脚元を狙ったら異形に隙が出来て、しっかりと狙って倒せたの。ありがとう、天音くん」
天音
「……っ…」
まるで花が咲いたかのような笑みを見せられて天音は思わず顔を逸らす。直視するのが出来ない眩しさ…そして、向けられた事の無い笑顔に天音の心臓が危なかったのだ
狂犬みたいな天音は怯えた顔しか向けられた事がなくて、不意打ちの笑顔にまたあの日感じた想いが浮上してくる。早くなる鼓動に顔が熱くなるような感覚…天音は結莉乃への恋心を実感した。
そんな事とは知らない結莉乃は呑気に天音に話し掛ける
結莉乃
「天音くんの名前って綺麗だよね」
突然の言葉に天音は驚いたものの、視線を僅かに下げ…彼女なら本音を零しても良いかと口を開く
天音
「俺は自分の名前が嫌いだ」
嫌いだと返された結莉乃は、気軽にして良い話題では無かったのかもしれないと反省する。彼を攻略していたらこの話題を避ける事は出来たのだろうか?なんて思うが、その言葉を返したという事は聞いても大丈夫…という事では無いのだろうか、と結莉乃は考え少し控えめに問う
結莉乃
「どうして?」
天音
「女みてェだから」
結莉乃は綺麗な響きだとしか思わず、性別がどうとかは考えていなかった。それが彼等と結莉乃が生きる世界での違いなのだろうか