第4章 手にしたい力 と 手にした力
慎太
「そういえば…異形に襲われたと聞いた。怪我はしていないか?」
気まずくなったら…そんな事を結莉乃は考えていたが、慎太からの問に不安は消えた。
結莉乃
「はい。…でも、庇ってくれた眞秀くんが怪我をしてしまいました…」
慎太
「鬼の治癒力は高い。気にする必要ないと思うぞ。…それに、あんたが治したと聞いた」
もうその事を知っているんだと思うと、結莉乃は苦笑しながら視線を膝の上に置いた手に落とした。
結莉乃
「あれは自分でも何が起こったのか分からないんです。…だから、また出来るのかも分からなくて…」
慎太
「そうか。もし出来なくてもそういうものだったと思えば良い」
結莉乃
「そういう…もの…」
治癒できる力が手に出来たかも、そう思った時は落胆したのに…それすらも無かったらと思ったら声のトーンが落ちてしまった
慎太
「あ、いや…気にする事はないと、そう伝えたかっただけで…その、諦めろとかそういう意味じゃ」
無口で無表情…そのイメージが強かった彼が、豊かでは無いものの慌てているのが伝わるとギャップを感じて結莉乃は思わず笑みを吹き出してしまった。勿論、何故笑っているのか分からない慎太はきょとんとする
結莉乃
「あ、すみません。励まそうとしてくれているのが嬉しくて」
慎太
「そうか…。あんたが笑ってくれて良かった。あ、それから…俺にも敬語はいらない」
結莉乃
「え、良いんですか?」
首を傾げて問い掛けると慎太は、しっかりと頷いた。それを見て結莉乃は笑みを浮かべ
結莉乃
「ありがとう…!」
向けられた笑顔に慎太は僅かに目を丸くしてから、すぐに細め結莉乃を眩しげに見詰めた。
右側の生え際からこめかみに向かって大中小と並ぶ角を見て彼が改めて鬼だという事を結莉乃は再認識するが、話していると自分と何も変わらない為、彼等を拒んでいる人達がいるというのが彼女を悲しくさせた。
その後、慎太と少し会話をしてから別れ…初日に貸してもらった眞秀の羽織を返しに行った。そして、初めての経験ばかりした日を終え、明日へと備えるのだった