第3章 始まった非日常
眞秀はゆっくりと鞘から刀を引き抜くと異形達へと向ける。
異形
「ギィ…殺ス…!」
不気味に濁った声を発しながら異形達が襲いかかってくる。だが、動きは鈍い様で圧倒的に眞秀の速さの方が上回っていた。
異形
「ヒギァァ…!」
異形
「グギァア…!」
異形達は眞秀が振り下ろす刀によって身体を切り裂かれ、耳にこびりつく様な不気味な悲鳴を上げ、紫の血液を吹き上げて事切れていく。異形とはいえど初めて間近で見る、生きていた者の死は結莉乃を少し苦しくさせた。
ただ、彼女は綺麗事を思うつもりはなかった。定かでも無いのに誰かの命を奪っている、その事実は許せるものではなかったからだ。
少女
「た、助けて…!」
結莉乃
「……?」
小さく聞こえてきた声に結莉乃が反応して顔をそちらへ向けると、異形の恐ろしさに腰を抜かして座り込んでしまっている少女がいた。
結莉乃は眞秀へ視線を向けるが、彼は三体を相手にしていて少女の存在に気付いていなかった。
結莉乃
(私が行く?でも…それで迷惑掛けたら…)
結莉乃が悩んでいると一体の異形が少女の存在に気が付いたのか、ニタリと大きな口を歪ませてゆっくりと少女へ近付いて行く。
少女
「やっ…嫌だ…助け…、っ…助けて!」
結莉乃
「……っ…!」
気付いた時には身体が動いていた。
異形の動きは鈍く結莉乃は先に少女の元に辿り着き、小さな身体を抱き締めていた。涙で顔を濡らした少女は突然の温もりに驚きつつも必死にしがみついた
結莉乃
「大丈夫…大丈夫だよ」
そう少女に声を掛けたものの結莉乃は焦っていた。戦った事なんて無いし、身体が勝手に動いた経験も初めてだ。自分に出来る事なんて無い…そう思っている間にも異形は距離を縮めてくる
少女
「お姉ちゃん…っ」
少女に見詰められると、少しでも距離を取ろうと結莉乃は履いていた草履を異形に向かって投げる。だが、それは大きな口を開いた異形の中に消えてしまった。そのちっぽけな攻撃が効くと思っていた結莉乃を嘲笑う様に異形は距離を縮める