第20章 目覚めた先で見た世界·弍
現実世界に戻ってきてから数日が経った。日が経つにつれて結莉乃は、自分が向こうの世界を求めている事を思い知り…その度にもう二度と戻れないと苦しくなる
結莉乃
(向こうの世界に戻りたい…皆に…胤晴さんに会いたい…)
毎日そう思い、涙を流した日も少なくない。いつの間にか便利とは言えないが彼等と居る生活を楽しんでいた事を改めて理解させられる
理解した所であの生活は戻ってこない。そんな事ばかりを考え続け今日が終わった─…
一方ゲーム世界の彼等は縁側に並んで咲き誇った庭の桜を眺めていた。
現実世界とゲーム世界では日の進みが異なっているらしく、冬だったゲーム世界は結莉乃が現実世界で時を刻んでいる間に季節が春になっていた。
眞秀
「本当だったらこの桜を結莉乃も一緒に見ている筈だったのにな。一緒に見れたら良いなって言ってたのに…」
眞秀は初日に縁側で結莉乃と話した事を思い出しながら、そう寂しげに呟いた。あの日から屋敷内には明るさが減ったように感じていた
毎年、綺麗だと思えていた桜も…何だか色褪せて見えた
するとその時…ばたばたと走る音が彼等に届く
凪
「この足音…彼女を思い出し─」
結莉乃
「皆…!」
眞秀
「え…結莉乃?あんた…帰ったんじゃ」
結莉乃
「今日、目が覚めたら借りた部屋だったの…!」
縁側に座っていた全員が有り得ない状況に目を丸くし固まった。結莉乃はというと二度とこの世界に戻って来られないと思っていたため涙目になりながら全員の顔を見た
─時刻は少し前…
戻らない生活に苦しみながら眠りにつき、夜が明け鳥の声が聞こえた時…結莉乃は目を開けたくないと思った。起きた所で苦しくて退屈な日常が来るだけ…
結莉乃
「……?」
匂いが違うと感じた。自分の部屋とは違う匂いだが、慣れ親しんだ匂いだと思い…結莉乃はゆっくりと瞼を持ち上げた