第3章 始まった非日常
眞秀
「簪付けなかったのは俺が頼んだからだ」
結莉乃
「え?」
眞秀
「簪を贈ろうと思っていたから、付けないでくれってな。…結莉乃の目に留まったのが簪で良かったわ」
結莉乃
「嬉しい…ありがとう」
眞秀
「ん。…ほら、付けてやる」
結莉乃
「うん」
綺麗に結われた髪に、すっと優しく眞秀は簪を刺すと笑みを浮かべ
眞秀
「ん、良いな」
結莉乃
「本当にありがとう、眞秀くん」
彼女の何度目かの感謝に眞秀は頷いて見せ、再び彼が目指す目的地へと歩み出す。
その間にも店の説明をして歩く。此処のご飯が美味しい、此処の店主は豪快だ、とか色々な事を聞きながら歩くのが結莉乃は凄く楽しかった。ゲームを進めている時には見えなかった場所を知れている、それが嬉しかったのだ。
そうして暫く歩いていると街の賑やかな音も聞こえなくなり、どこまで行くんだろう…と結莉乃が思っていると静かで澄んだ森へと眞秀は進んでいく
眞秀
「おし、着いた。…俺が結莉乃を連れて来たかった場所」
そう言って木々が入口を作るようにしていた場所から眞秀が身体をずらすと─…
結莉乃
「わぁ…!」
色とりどりの花が風にそよがれており、大きな気や岩には藻が張り巡り…神秘的で綺麗な場所だった。
結莉乃はその綺麗な空間と色とりどりの花を見て、心底嬉しそうな笑顔を見せる
その笑顔を見て眞秀は良かったと安堵するのと同時に、微かな胸の高鳴りを感じていたが…気のせいだろうと思い彼女の隣に立つ。
結莉乃
「凄い綺麗な場所…。どうして此処に?」
眞秀
「花を見るのが好きって言ってたろ」
結莉乃
「あ…」
眠れなくて縁側で月を見ていた時に話した…本当に些細な内容を記憶してくれて連れて来てくれたんだと思うと、結莉乃の胸はじんわりと暖かくなった。