第17章 心の交わりと遭難
薫
「千兼…彼女を此方へ」
千兼は、ちらりと背後に居る結莉乃を見てから薫へ視線を戻して笑みを浮かべる
千兼
「ごめんなぁ、薫様。俺その命令、聞けないや」
薫
「何…?」
千兼の返事に薫を纏う空気が変わるのを結莉乃は肌で感じる。千兼が何故そんな事を言ったのか分からないものの、この場がまずい事になっているのは結莉乃も分かる
結莉乃
(どうしよう…っ)
一瞬も視線を逸らさない二人を見ていると、遠くから何かの走る音が聞こえてきた。その音はどんどん三人に近付いてきて…姿が見える
結莉乃
「雪…!」
一番最初に目に入ったのは黒に映える真っ白な身体の雪の姿だった。その後ろには凪と胤晴が愛馬に乗っていた
薫
「また厄介な…」
凪
「雪が落ち着きがなかったので外に出してみましたが…まさかこんな事になっていたとは」
胤晴
「まったく…君はすぐ巻き込まれる」
結莉乃
「すみません」
泣きそうになりながらも謝罪する結莉乃が無事である事に二人は安堵した。そして、千兼が結莉乃を庇い薫と対峙している光景に疑問を持つ
胤晴
「本当に諦めていなかったのだな」
薫
「言ったじゃないですか…彼女自身を諦めた訳では無いと」
胤晴
「俺の領で好き勝手は許さない」
壬生で暴れるのは得策では無い、そんな事くらい薫は理解している。彼女を連れて帰りたいのと同時に千兼に裏切られた事を問いたい思いが交わる
薫
「ちっ…」
だが、薫は舌打ちを残し…ふわりと消えてしまった。
凪
「それで?貴方は何が目的ですか」
凪に問われた千兼は真顔だった表情に笑みを貼り付ける
千兼
「俺、主に楯突いちゃったんで玲瓏に戻れないんすよぉ。だから、貴方達の仲間にして下さい」
胤晴
「何…?」
予想もしていなかった千兼の言葉に全員が驚いて首を傾げた