第3章 始まった非日常
結莉乃
「わ、私は!人間も鬼も他の種族も見た目が少し違うだけで皆、何も違わないと思います。優しくて暖かい…そんな過去を持っているのに私を屋敷に招いてくれた胤晴さんや異物の私に笑い掛けてくれる貴女の様な優しい人がいて安心したんです」
女中
「…結莉乃さん……」
そんな事を言われると思っていなかった女中は面食らった様に結莉乃を見詰めていたが、暫くして柔らかく笑を零した。
女中
「結莉乃さんは不思議な方ですね。…私、貴女の世話役になれて良かったです」
結莉乃
「私も貴女で良かったです」
二人の間には喜びという空気が漂い始め、その空気を纏ったまま女中は腰まであった結莉乃の黒髪を結った。
その途中で彼女は簪を刺そうとして意味深な笑みを浮かべて、その簪を元の位置へ戻した。不思議になったが特に問い掛ける事なく支度を終えた
結莉乃
「凄い…自分が綺麗に見える…」
女中
「見えるんじゃなくて、綺麗なんですよ」
結莉乃
「そ、そんな…ありがとうございます」
姿見の前に立って自身の全身を見回して結莉乃は感動していた。思わず零れた声に返された言葉に頬を染めつつも素直にお礼を述べた。
和装は自分でも簡単に着られる浴衣しか着た事が無く、しっかりした着付けといえば成人式の時だけだった。出掛ける目的で着物を身に纏うなんて初めての経験で心が弾んだ
眞秀
「結莉乃。支度は済んだか?」
結莉乃
「あ、うん!…ありがとうございました」
女中
「いえ。楽しんでいらしてください」
襖の向こうから聞こえた眞秀の声に返事をしてから、女中にお礼を述べ彼女に見送られて部屋を出た。
結莉乃
「呼びに来てくれてありがとう」
眞秀
「………」
結莉乃
「眞秀くん?」
眞秀
「あ、いや。悪い」
結莉乃を見た瞬間に固まってしまった眞秀を見て不思議に思い、彼の顔の前で手を振ると眞秀は慌てた様に笑い