第17章 心の交わりと遭難
結莉乃
「すみません…」
胤晴
「いや、良い」
泣き終えた結莉乃は胤晴の着物を濡らしてしまった事に謝罪をする。だが胤晴は普段、見せない柔らかい笑みを浮かべる
いつもより笑っている胤晴を見て結莉乃は、胤晴が自分と両想いである事に喜んでくれてたら良いな、と思った。
結莉乃
(推す人と恋をする人って違うんだ…)
結莉乃は現実世界ではずっと眞秀を推して、眞秀だけを攻略していた。だが実際、過ごし関わりを持ち…恋愛として好きだと思ったのは胤晴であった事に結莉乃はそう思わずにはいられなかった
胤晴
「こうか?」
結莉乃
「あぁ、もうちょっと屈んでください!」
胤晴
「中々に辛い体勢だな」
結莉乃はスマホを持ち自撮りをしようと考えたが、自分と胤晴の身長差に苦労をした。胤晴が屈んだ事により上手く写真は撮れ…大切なものになった。
暫くそこで過ごした二人は馬に乗り、屋敷へと戻った。二人が纏う空気は以前のものとは変わっていた。その空気に彼等が気付かないわけがなかった
天音
「ちっ…」
八一
「あーぁ」
天音
「ンだよ」
八一
「ん?いや、胤晴さんに先越されちゃったなと思って」
天音
「なっ…てめ…っ」
八一
「あれぇ?天音も?」
天音
「クソッ」
鍛錬をしていた天音と八一は道場の前を別々で通った結莉乃と胤晴を見て、天音は不機嫌になり八一は珍しく落ち込む。
慎太
「幸せそうだな」
眞秀
「?……あぁ、そうだな」
眞秀に頼まれて雑草処理を手伝っていた慎太が発した言葉に眞秀は一瞬、首を傾げた。だが、結莉乃達の空気を見て…どこか寂しげな笑みを浮かべて眞秀は頷いた。慎太は良かったと思うの同時に少しだけ心が苦しかった
凪は予定を胤晴に告げ終わると…
凪
「おめでとうございます、王」
胤晴
「何の事だ」
凪
「結莉乃にお気持ちを伝えたのでしょう」
胤晴
「あぁ……ふっ、ありがとう」
長く傍に居る凪はすぐに理解し、言葉を掛けた。凪は風月が亡くなってからの彼を心配していたが結莉乃の存在のお陰で変わった事に心から喜んでいた。
胤晴は目を伏せながらも嬉しげな笑みを浮かべた