第16章 束の間の安らぎ
その日から結莉乃の舞は向上する一方だった。だが、胤晴とは気まずいままで結莉乃は会話を出来ずにいた
だが、舞に関して結莉乃から不安はなくなった
舞披露当日─…
若葉に着せてもらった天女を彷彿とさせるような白い生地に金の糸で刺繍された衣装は、結莉乃の心を弾ませたが…出番が近付くにつれ結莉乃を緊張が襲う
控え室で鏡で、普段とは違う髪型や化粧…その鮮やかで華やかな装いには似合わない不安気な表情を浮かべる自分を見て溜め息を吐く
結莉乃
(大丈夫…大丈夫…)
自分に言い聞かせるものの緊張は消えなかった。すると、控え室に来訪者がやって来て…結莉乃はその姿に表情を固くする
胤晴
「顔が緊張しているな」
結莉乃
「胤晴さん…」
勝手に嫉妬して怒ってしまった事を謝らなきゃ、と思い結莉乃は立ち上がり歩み寄ろうとしたが…緊張で脚が縺れて倒れそうになってしまう
結莉乃
(転ぶ…!)
転ぶのを覚悟したが、結莉乃の身体は逞しい腕の中に収まっていた。誰か、なんて疑問に思わずとも分かる…この場には結莉乃と胤晴しかいないのだから
胤晴
「大丈夫か」
結莉乃
「は、はい…すみません」
緊張するのに安心する様な不思議な感覚に結莉乃がなっていると、胤晴の腕に軽く力が込められ優しく抱き締められる。突然の事に結莉乃が驚いていると頭上で胤晴の声が聞こえた
胤晴
「すまなかった」
結莉乃
「え…?」
胤晴
「初めて舞に挑戦し、もうすぐ本番を迎える君に対してあの発言は良くなかったと反省している。…比べていると思われて仕方が無い」
結莉乃は違う理由で怒っていたが、結莉乃は胤晴に好意を寄せている事がバレなくて良かった…と安堵していた
結莉乃
「私こそ…すみません。中々、上手く出来なくて…その時に風月さんのお名前が出たので、胤晴さんに八つ当たりする感じになってしまいました。本当にすみません」
胤晴
「いや…良い」
八つ当たりをしてしまったのも事実なので結莉乃は素直に謝罪する