第16章 束の間の安らぎ
結莉乃
「…すみません、私で」
胤晴
「……?」
基本的に前向きで周りの背中を押す役割をしていた結莉乃の暗い表情と突然の謝罪に胤晴は首を傾げる
結莉乃
「私は多分…どれだけ頑張っても風月さんの様には舞えません」
胤晴
「結莉乃…?」
止まって、そう思うのに結莉乃から溢れる言葉は止まらない。胤晴を困らせたいわけじゃない…そう思うのに広がる墨のせいで結莉乃はそのまま続けてしまう
結莉乃
「私は風月さんでは無いので、胤晴さんが好きな舞は出来ないと思います!」
脚が痛いのも無視して結莉乃は広間を飛び出す。怒っている所を初めて見た胤晴は戸惑い追いかける事が出来なかった
胤晴
(比べたつもりは無いのだが…)
以前は風月の話をしても怒る事が無かった結莉乃の態度に胤晴は不思議に思う。だが、どれだけ考えたところで答えは出ず胤晴は広間を去った
一方、結莉乃は飛び出してしまった事を反省していた。何故怒っているのか分からず変な奴だと思われたと結莉乃は縁側に座りながら息を吐き出した
慎太
「結莉乃?」
結莉乃
「あ、慎太くん」
たまたま通りかかった慎太に声を掛けられ、結莉乃は下げていた頭を上げる。慎太は静かに結莉乃の隣に腰掛ける
漸く冷静になれた結莉乃の心は再び、慎太によって乱される
慎太
「前に答えが欲しいわけじゃないと言ったのを覚えているか?」
突然の事に驚いたものの結莉乃は小さく頷いた
慎太
「だが…今はあんたの答えが聞きたい」
何で今なのだろう、そんな事を結莉乃は思った。早くなる鼓動に結莉乃は急かされている気分になる。
断ったら気まずくなるのだろうか…そんな事を考える。だからといってそんな理由で受けては慎太に悪いと思い、結莉乃は膝の上で拳を握る