第16章 束の間の安らぎ
そうして前半部分が身体に馴染むまで数日がかかった。その調子で中間部分、後半部分を覚えていったのだが…思ったよりも時間が掛かり月の半分以上を使ってしまった。
覚える事は早かったのだが、流れる様に舞うという優美さが難しく…何と言っても結莉乃がそれに厳しかった
結莉乃
(どうしても八一くんが見せてくれたみたいな流れる様な動きが出来ない)
踊り続け額から流れる汗を拭いってから結莉乃が再び踊り出そうとした瞬間、ずきっと脚の裏を激痛が襲い思わず顔を歪めて固まる
八一
「休憩しよう。やり過ぎも良くない」
結莉乃
「八一くん…でも、まだ全然…」
八一
「もっと自分の脚を労わってやんなよ。ほら休む」
結莉乃
「分かった…」
半分以上も日を使ってしまった事と優美さに欠ける自分の舞がより結莉乃の焦りを増させた。任されたんだからちゃんと美しく舞わなきゃ、そう思う度にもっと練習しなきゃという思いにさせられた
だが、身体は結莉乃が思っていたよりも疲労が溜まり…脚の裏には結莉乃の頑張りを表すように出来たたこが潰れてしまっていた
八一
「俺ちょっと眞秀に呼ばれてるから一旦離れるけど…俺が来るまで練習再開禁止だからね」
結莉乃
「ん、分かったよ」
汗を拭いながら結莉乃は、指をさして念を押す八一に頷く。八一は心配そうにしつつも広間から出て行った
一人になった広間で結莉乃は脚を伸ばして座る。じんじんと痛む脚の裏は熱く感じる。ぼーっと伸ばした脚を見ていると誰かの声が聞こえた
胤晴
「結莉乃、少し良いか」
結莉乃
「胤晴さんっ」
予想していなかった人物の声に、結莉乃の顔は弾かれたように上がる。胤晴が広間に入ってくると結莉乃は慌てて正座をしようとする
胤晴
「そのままで良い」
結莉乃
「ですが…」
胤晴
「気にするな」
隣に腰掛けた胤晴の言葉に甘える事にして脚を伸ばしたままでいる事にした。胤晴と二人きり…その事が疲れた結莉乃の身体を甘く癒していくのと同時に少し緊張させる