第16章 束の間の安らぎ
翌日─…
舞の練習は午後からだと凪から伝えられた結莉乃は、午前中に約束をした稽古の時間までに予定を済ませようと町へ出ていた。
履きなれた草履で歩きながら目的の書店へと脚を踏み入れた
結莉乃
(あった…!)
書店の前に広告が貼られてから発売日を楽しみにしていた小説を手に取り支払いを済ませる。欲しかった物が発売日に手に入った事で結莉乃の足取りは軽かった
だからなのか…普段であれば気付ける異音にも気が付か無かった
「危ない!」
結莉乃
「…っ!?」
その声と共に訪れた衝撃に結莉乃は思わず目を瞑る。暗くなった視界の外で、がこんっという音が耳に届き結莉乃の身体は小さく跳ねる
ゆっくりと閉じていた瞼を持ち上げると誰かの腕の中にいた。そして、その隣には上から落ちてきた瓦が割れていた
「大丈夫?」
結莉乃
「あっ…すみません!」
結莉乃は乗ってしまっていた男性の上から慌てて降りる。下敷きになっていた男性はゆっくりと起き上がり結莉乃へ視線を向ける
「怪我は無い?」
結莉乃
「はい…貴方のお陰で」
「良か……いっ」
結莉乃
「大丈夫ですか!?」
結莉乃が抑えた男性の腕を確認すると地面に擦れたのか捲れ上がった袖の下の肌から血が流れていた。見るからに高そうな着物を汚し、怪我とは無縁そうな腕を血に染めながらも助けてくれた男性に頭を下げる
結莉乃
「すみません、私がもっと気を付けていれば…」
「気にしないで。君にあれが当たらなくて良かったよ」
結莉乃
「ありがとうございます…。良ければ私にその傷治させてください」
「…え?」
結莉乃
「失礼します」
右掌を結莉乃が腕に翳すと淡い光が溢れ傷を覆い…その光が消えると彼の傷は治っていた。初めて見る光景にやはり男性は驚くが、次には柔らかい笑みを浮かべた
「ありがとう。お陰で痛くなくなったよ」
結莉乃
「いえ、こちらこそ…」
町人
「結莉乃ちゃん大丈夫かい!?」
瓦を乗せていた職人が慌てて屋根から降りて来て結莉乃へ声を掛ける。結莉乃は笑みを浮かべながら立ち上がる