第13章 慣れるが為にこの町を歩き出す
薫
「まさか…ここまでするとは思いませんでしたよ」
「最初に此方へ喧嘩を売ったのは其方だ」
結莉乃
(この声…胤晴さん!?)
此処に居るはずがない人物の声に結莉乃は目を丸くする
胤晴
「だから、その喧嘩を俺は買ったんだ」
薫
「成程…」
胤晴
「…っ…?」
胤晴の身体に気が付けば天音に絡まったのと同じ糸が巻き付いていた。ぐっと力が込められると胤晴の着物を裂き肌に食い込む。だが、胤晴はそれに慌てる事も表情を変える事もなく抜刀し一振で糸を全て切ってしまう
蜘蛛男
「…何…?」
胤晴
「君では無く領主に用があるんだ。退いていてくれ」
蜘蛛男
「…っ…!」
動きも見えぬ程に早く動いた胤晴により蜘蛛男は簡単に気絶させられてしまう。それくらい容易いだろうと思っていたが、実際目にすると薫は僅かに目を丸くする
薫
「壬生にまで行って、攫ってきたんです。易々と渡してたまるものですか」
胤晴
「成程…」
薫も抜刀すると庭へ降りる。襖の向こうで何が起こっているのか分からず結莉乃は息苦しさを感じる。
胤晴と薫は小さく息を吐き出すと互いに間合いを詰め刀をぶつけ合う
薫
「…くっ…」
胤晴の一撃一撃は重く薫の表情が険しくなっていく。鬼城に暮らす彼等は鬼の中でも強く、それを束ねる長である胤晴は群を抜いて強い
襖を掴む結莉乃の手には力がこもる。このまま此処で大人しくしていて良いのか…結莉乃は自分に問う
結莉乃
(そんなの駄目な気がする…!)
その答えを出した結莉乃は、ばっと襖を開ける。すると、胤晴と薫の刀が振り下ろされる瞬間だった。結莉乃は慌てて手を出して水色の光を二人の間に出現させる
二人の刀は水色の壁に阻まれる
薫
「大人しくしている様に言ったじゃないか」
結莉乃
「すみません…でも、それじゃ駄目な気がして…」
二人が刀を下ろすのを見ると結莉乃は水色の壁を消す。胤晴は何か言葉を発する事もなく着物を纏っていない、結莉乃を見る