第13章 慣れるが為にこの町を歩き出す
虎蒔
「これは困ったなぁ」
天音
「鰐のおっさん」
虎蒔
「せめておじさんにして欲しいな」
風を吹かせたのは虎蒔の抜刀した勢いだった
虎蒔
「強行手段に出たのは薫さんだから文句言えないが…やはり屋敷を荒らされるのは気分が良くない」
天音
「ハッ…るっせェよ、てめェはオレがぶっ飛ばす」
虎蒔
「…そうか。それならおじさんも少し頑張っちゃおうかな」
胤晴
「天音」
天音
「大丈夫っス。もうあんなヘマしねェです」
天音の言葉を聞けば胤晴は飛び上がるようにして屋敷内を駆けていく。天音も抜刀すると口角を上げた
虎蒔
「薫さんが惚れる子だ…君達が放って置かない筈だよね」
天音
「おっさんには関係ねェだろ。……行くぞ」
普段の柔らかいのんびりとした姿から一変して虎蒔の表情は凛々しくなる。そして、二人は同時に地を蹴り刀を振り上げる。刀同士がぶつかり合うと互いに距離をとる
天音の自由奔放に見える太刀筋にも見えるが、しっかりとした基礎から繰り出される刀に虎蒔は防戦一方だ
虎蒔
「君の、相手は…嫌だなぁ」
そう告げつつも思い切り踏み込みながら振り下ろした刀を受け止めた天音は、あまりの重さに目を丸くする
天音
(クソッ…緩い話し方のせいで調子狂う…!)
玲瓏で一番強いのは恐らく千兼だろう。だが、その次に来るのは間違いなく虎蒔だ。実力と見た目は比例するわけではない
結莉乃
「何か…屋敷内が騒がしい?」
数々の怒号が響き、その合間には刃物がぶつかり合う音すら聞こえる。結莉乃が襖を開けようとすると
薫
「開けてはいけないよ」
結莉乃
「…っ…薫さん?」
薫
「少し大人しくしていて」
部屋の前には薫が居るらしく声を掛けられれば大人しく、襖にかけようとしていた手を下ろした。じゃり、と石を踏む音が耳を澄ませている結莉乃に届く
結莉乃
(薫さんは此処に居る…という事は誰かに屋敷が襲われているという事?)
予想しか出来ない状況に結莉乃はもどかしさを感じる