第13章 慣れるが為にこの町を歩き出す
結莉乃は虎蒔から貰った羽織を、ぎゅうっと握る。自分のせいで保たれていた均衡のようなものが崩れるのは嫌だった。
どう声を掛けようか悩んでいる結莉乃を薫は愛しげに見詰める。その視線に気が付いた結莉乃は首を傾げたが、薫は口元に笑みを浮かべて背を向ける
薫
「今回は諦めます。…ですが、彼女自身を諦めたわけではありませんので…その辺はお忘れなく」
それだけを述べると薫は廊下の奥へと去っていってしまった
胤晴
「結莉乃」
ずっと黙っていた胤晴が薫が消えた方を見て呆けている結莉乃へ声を掛ける。すると結莉乃はゆっくりと視線を胤晴へ向ける
結莉乃
「胤晴さん…」
胤晴
「迎えに来た。…帰るぞ」
胤晴の声と姿に結莉乃は安心して、ぶわっと涙が溢れ出す
結莉乃
「胤晴ざぁん゙…」
胤晴
「な、何だ急に…どこか怪我でもしているのか?」
突然、号泣する結莉乃を見て糸で傷を負わされても慌てなかった胤晴だったが少し慌てる
結莉乃
「違います…胤晴さん見たら安心しちゃって…うっ…胤晴さん!」
二度と会えないと思っていた胤晴に会えた事に感動し、結莉乃は思わず抱きつく。胤晴は突然の事に目を僅かに丸くしたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべ結莉乃を優しく包み込む
胤晴
「勝手に決めおって」
結莉乃
「だって、皆が私のせいで傷付くの嫌だったから…」
胤晴
「ふっ…君の良い所だな。もうよい」
結莉乃
(胤晴さんだ…)
胤晴
「…また君に会えて良かった」
身体を離した胤晴の大きな手が頬に添えられ、親指が涙を拭う。そして、心底安堵した様な笑みを浮かべる胤晴を見て…とくんっと結莉乃の胸が高鳴った。その感覚に結莉乃は少し驚き涙が止まる
結莉乃
(私もしかして…胤晴さんの事…)
離れて会った事により自覚させられた自分の気持ちに結莉乃は戸惑う。最初は怖かったのに自分の危機には必ず駆け付けてくれる胤晴の事を気付かずうちに想っていたのだと理解し、結莉乃の頬は赤く染まるのだった