第13章 慣れるが為にこの町を歩き出す
父親
「な、何故薫様が…っ」
薫
「君の様な男に名を呼ばれたくない。彼女が怪我をしていたらただじゃおかなかったよ」
父親
「…っ…」
瞳だけで人を殺せるのでは無いかと思う程の鋭さと、地を這うような低い声に父親だけでなく結莉乃も身体を震わせる。
その後、薫が呼び付けていた部下によって父親は連れて行かれた
結莉乃
「薫さん…ありがとうございました」
薫
「良いんだよ。君は無茶をするね」
結莉乃
「すみません…」
薫
「だが、その優しく強い姿に僕はまた君に惚れた」
結莉乃
「そんな…。あ、その…薫さんは何であそこに?」
薫
「屋敷に帰る途中に君の姿を見付けてね。何をするのか気になってね…だが、後をつけて良かった」
後をつける、という言葉はどうなのかと思ったが彼がいてくれなきゃどうなっていたか分からないと思った結莉乃は素直に感謝する事にした。
薫
「さて、問題は君だが…」
木賊色の瞳を向けられた千恵は、ぴくりと反応して結莉乃の裾を掴んで少し後ろに隠れる
薫
「僕が贔屓にしている寺が孤児を引き受けているんだ。そこには暖かい人しか居ない。…行ってみるかい?」
千恵は悩む様にしながらも、結莉乃の裾を掴む手は少しだけ強くなる。結莉乃はしゃがみ込んで千恵を見詰める
結莉乃
「きっと大丈夫だよ。千恵ちゃんは勇気を出して私に助けを求めてくれた。そんな強い千恵ちゃんならそこに行っても大丈夫」
千恵
「……お姉さんも、ついてきてくれる?」
結莉乃
「うん」
そうと決まれば三人は寺へと向かう。千恵は結莉乃と手を繋いだまま緊張しながら歩いていた
木製の門を潜ると優しい笑みを浮かべた住職がお辞儀をした
住職
「良くいらっしゃいました。…初めまして」
結莉乃
「千恵ちゃん」
千恵
「初め、まして…」
緊張と恥ずかしさで千恵の頬は赤く染っていた。すると、奥から子供の楽しそうな声が響いてきて千恵は、そわそわし出す
住職
「一緒に行ってみますか?」
千恵
「えっ、と……はい」
住職の後について三人も寺の奥へと入って行く。そこでは千恵と同じ位の歳の子が楽しそうに遊んでいた