第13章 慣れるが為にこの町を歩き出す
結莉乃
「女だからって舐めないで下さい」
父親
「へぇ?大層な事を言うじゃないか。…千恵、女を頼った自分を恨めよ。お前のせいでこの女は死ぬんだ」
千恵
「…ひ、っ…」
結莉乃
「そういう事はやってから言ってください」
結莉乃は恐怖で震えないように強く拳を握る。大丈夫、そう自分に言い聞かせる
父親
「何も出来ないくせに、偉そうな事を言うな!」
結莉乃
「…っ…」
千恵
「お姉さん…!」
結莉乃に向かって遠慮無く振り下ろされる拳を見て千恵の悲鳴にも似た叫びが響く。だが、結莉乃はその拳を払ってそのまま腕をぐっと脇で挟み込む
父親
「…っ、くそ…何だと…っ」
まさか抑え込まれると思っていなかった父親は驚いて目を丸くする。だが、すぐに思い切り腕を引いて彼女の拘束を解く
父親
「巫山戯やがって…!」
結莉乃
「巫山戯ているのは貴方です!」
父親
「あ、っ…く…!」
再び振り下ろされた拳の勢いは殺さず結莉乃は父親の手首を掴み軽く引っ張ると、その速度で体勢を崩した父親の背後に回り掴んだままの手首ごと腕を後ろに持っていく。そして、腕を掴んでいる肩をぐっと抑え込んで床に押し付ける
そんな事になるとは思っていなかった父親は驚くが、暴れる力には結莉乃は恐らく勝てないと予想して父親は暴れる
結莉乃
「…っ…!」
予想通りその力には負けそうになるが絶対に離してはいけないと思いつつも手が解けそうになった時─
薫
「大人しくしなさい」
ふわっと優しい香りに包まれるのと同時に結莉乃が抑えている手首に白く大きな手が隣に添わせられる
結莉乃
「薫さん…!?」
薫
「…結莉乃、離して良いよ」
薫の出現に驚きながらも言われた通り手を離し後ろへ下がる。すると、千恵がすぐに結莉乃へ抱きついてくる
結莉乃
「大丈夫だよ、千恵ちゃん」
千恵
「良かっ、た…ぅ…助けてくれて、ありがとう…っ」
大きな目から溢れる涙を結莉乃は優しく拭う。薫が御札を取りだすと、その御札は形を変え父親の両手を後ろで拘束する