第13章 慣れるが為にこの町を歩き出す
千恵の様子が気になった結莉乃は、こっそり台所を覗いて見た
結莉乃
「……っ…」
父親
「何故逃げた?…お前あの女に何か言ってないだろうな?」
千恵
「ひっ…い、って…ない…っ」
結莉乃の視界には衝撃的な光景が広がっていた。先程まで柔らかく笑っていた父親は、千恵の胸倉を掴み眉間に皺を刻み鋭い眼差しを向けていた。
結莉乃
(これが千恵ちゃんが怯えていた理由…。逃げて来たんだ…彼から)
でも、女の自分に何が出来る?彼女の盾になってあげる事しか出来ないと結莉乃は考える
天音
『アンタはもっと自分に自信持て』
結莉乃
「…っ…」
その時、稽古中に言われた天音の言葉を結莉乃は思い出す
結莉乃
(そうだ…天音くんに稽古を付けてもらって刀を振れる様になって、少しだけなら体術も出来るようになった。あんなに強い天音くんが自信持って良いって言ってくれたんだから…出来るかもしれない)
そんな事を考えているうちにも状況は既に動き出していて
千恵
「やっ…ごめん、なさいっ…やだ、っ…!」
父親
「五月蝿い!」
父親の手が振り上げられると千恵は痛みに備えて、ぎゅうっと目を瞑る。結莉乃は先程まで色々考えていたが、それを考えるよりも先に身体が動き襖を開けていた
結莉乃
「やめてください!」
父親
「あ…?」
鋭い視線を結莉乃に向けると父親の機嫌は更に悪くなる
父親
「これは父娘の問題ですよ。他人の貴女が口出さないで下さい」
結莉乃
「暴力を振るわれている子を見て黙っているなんて出来ません」
父親
「どうせ綺麗事だ。所詮は女…何も出来ないさ」
父親は口元を歪ませて馬鹿にしたように笑う。結莉乃が割って入った事により千恵の胸倉から手が離れると少女は震える脚を何とか動かして結莉乃の後ろへ隠れる