第12章 訪れた難に身を委ね
結莉乃
(不思議な人…)
ぼーっと千兼が去っていった方を眺めてそんな事しか考えなれなかった。
結莉乃が壬生に帰りたいと思っていた頃、壬生には客人が訪れていた
眞秀
「おー、もうそんな時期か」
「今年もお世話になります」
眞秀
「良くいらっしゃいました」
秋の訪れと共に鬼姫である柊 和都 (ヒイラギ ワコ)が鬼城にやってくるのが恒例になっていた。壬生には鬼城以外にも数個、屋敷があり広い壬生を胤晴達だけでは補えない分をそこに暮らす者達が担っている。和都はその中で一番、力のある姫だ
和都は鬼城で自身が宛てがわれている部屋に行く前に胤晴の部屋に向かうのだが、屋敷内に漂う空気がどこと無くぴりついているのを感じ取る
和都
「今年も宜しくお願い致します、胤晴様」
胤晴
「嗚呼、こちらこそ」
和都
「ところで何かあったのですか?」
和都は丸い目の中で輝く璃寛茶色の瞳を胤晴へ向けて首を傾げる。胤晴は僅かに目を伏せる
胤晴
「屋敷で暮らしている者が連れ去られてな。…少し屋敷内の空気が重く居心地が悪いかもしれんが、気にせず過ごしてくれると有難い」
和都
「大変な時にお邪魔してしまい申し訳ありません。そして、お気遣いありがとうございます」
言葉を交わしていてもどこか気持ちが入っていない様な胤晴を見て、和都は誰が攫われたのだろうと考えた。だが、此処の屋敷に暮らしている顔馴染みの人は全員居た…であれば、自分が知らない誰か大事な人が攫われたのだと和都は理解した
─ 玲瓏 夕餉刻 ─
薫
「口に合わないかい?」
結莉乃
「いえ、凄く美味しいです」
薫
「そうか、良かった」
結莉乃に宛てがわれた部屋で薫と共に食事を摂っていた。皆で揃って食べないんだと考えたが勿論、言葉にはしなかった
薫
「明日からは町も自由に歩いてくれて構わない」
結莉乃
「…え?」
突然の言葉に結莉乃は小鉢を持ったまま首を傾げて正面に居る薫を見詰める