第12章 訪れた難に身を委ね
薫
「君は捕虜じゃない。いずれ僕の嫁になる人だ…という事はこの町が君が住む町となる。屋敷に篭もる必要は無いよ。ただ…」
何を言われるのだろう…そう思いながら結莉乃は木賊色の瞳を見詰め続けた
薫
「他の領へ移動する事は許可出来ない。例え観光であったとしても…僕が居ない時に領を出てはいけないよ。他領に行くのは僕が共に居る時のみだ…良いね?」
結莉乃
「はい、分かりました」
徹底的に逃げ道を塞がれる感じがした。だが、そもそも力量に差があり過ぎるため帰りたいとは思っても逃げようと結莉乃は一度も考えていなかった。
ある程度の自由は与えるものの、囲いの中に放たれるだけ…そんな気分になったが玲瓏の中だけでも自由に出来るのは有難いと結莉乃は感じた
結莉乃
「あの…薫さん」
薫
「何だい?」
結莉乃
「どうして私だったんですか?」
薫
「…何故、君を嫁にするのか…そう問いたいのかな」
結莉乃
「そうです。…だって、私は特別に綺麗な訳でもないですし…薫さんだったら他の女性が放っておかないのでは」
薫
「ふふ…そう思うかい?」
結莉乃
「…はい」
結莉乃がずっと疑問に思っていた事。何故自分だったのか、そんなに目を引く容姿をしている覚えは無くて純粋な疑問であった
薫
「君は綺麗だよ。他の女性よりも…君は綺麗だ。上安曇以外では人間と婚姻関係を結ぶ事は良しとされていない。それでも僕が結莉乃を選ぶのは…運命を感じたからだ」
結莉乃
「運命…?」
薫
「うん。説明は出来ないけど…僕は君が良いんだ」
初めて呼び捨てにされ、彼の中で自分はもうただの他人では無い事を理解する。同時に愛しい者を見るように向けられた木賊色の瞳に結莉乃はいたたまれない気持ちになり、合わせていた焦茶の瞳を伏せる
結莉乃
「ありがとうございます」
そう一言返すのが結莉乃には精一杯であったのだった。そうして結莉乃の怒涛な一日は玲瓏で終わりを迎えた