第12章 訪れた難に身を委ね
結莉乃は虎蒔が此処から去っても明るくいられるように、漢服を着れるのだという楽しみな事だけを考えるようにした。
虎蒔
「じゃ、そろそろ僕は行かないと。…またね」
結莉乃
「はい、また」
ゆるりと手を振って出て行く虎蒔を結莉乃は見送った。それから少しして虎蒔が言っていた身の回りの事をしてくれる女性が訪れた
結莉乃
「わぁ…凄い…」
世話係
「こちらは襦裙と呼ばれる格好です。…とてもお似合いですよ」
結莉乃
「ありがとう…ございます」
真っ白な生地を同じ様に白い帯で胸上で締め付け、裾の長いスカートは所々に淡い紫の花刺繍が施されている。紅梅色の肘掛けを羽織る…初めての姿に鏡に映る自分が自分でないように感じて結莉乃は何度も見てしまう。
少し動くだけでもスカート部分がふわりと動きそれに合わせて揺れる長い肘掛けもとても美しくて、結莉乃の気分は少しだけ軽くなる
だが、襖が開きそちらに目をやると結莉乃の気分はまた沈み気味になる
薫
「良く似合っているね」
結莉乃
「………」
彼は天音を傷付けて自分を此処へ連れて来た人、その思いが強く結莉乃の表情は少しだけ険しくなる
薫
「怒っているのかい?…でも君のお陰で彼は無傷になったじゃないか」
結莉乃
「そういう事では…」
薫
「だって、ああでもしなきゃ君はこっちに来ないだろう?」
傷を負わせた事を何とも思っていない姿に結莉乃の表情はより険しくなる。二人の邪魔をしないようにと世話係はお辞儀をして静かに部屋を出て行った
薫
「………。すまなかったよ、君の大切な仲間を傷付けて」
結莉乃
「……え…」
一目惚れをして攫ってきた想い人に責められる様な鋭い視線を向けられるのは、流石の彼でも嫌だったのか僅かに眉を下げ結莉乃の右手をとり指先を軽く握る。
謝罪されるとは思っていなかった結莉乃は驚いて目を丸くする