第12章 訪れた難に身を委ね
虎蒔
「もしかして羊羹、苦手だったかい?」
結莉乃
「え?…あ、好きです。ありがとうございます」
羊羹を見詰めたまま固まってしまった結莉乃を見て虎蒔は眉を下げて首を傾げたため結莉乃は、はっとしてすぐにお礼を述べた
結莉乃
(胤晴さんの時も、ぼーっとしちゃって苦手かと思われちゃったんだった)
思い出すのと同時に同じ事をしてしまった自分に結莉乃は苦笑する。羊羹を一口含むと優しい甘みが更に心と身体を解してくれるようで、結莉乃の口角は自然と上がっていた
それを虎蒔は安堵した様な柔らかい表情を浮べて見詰めた。結莉乃はその視線に気が付くと不思議そうに首を傾げる
虎蒔
「笑った所を見られて安心したんだよ」
結莉乃
「笑った所……その為に羊羹を…?」
虎蒔
「うん。ずっと緊張してるなんて疲れちゃうからね。…それに、その羊羹おじさんのおすすめだから食べて欲しかったんだ」
結莉乃
「ありがとうございます。…あ、私…名乗るの忘れてました」
虎蒔の優しさに結莉乃の口元は緩み言葉が出るようになった。それと同時に自身の名を告げていなかったのを思い出す
虎蒔
「君の名前は知ってるよ。この屋敷にいる者、全員ね」
結莉乃
「そうなんですね…」
僅かに苦笑する結莉乃に虎蒔はまた言葉を紡ぐ
虎蒔
「もうすぐしたら君の身の回りを手伝ってくれる人が来るからね」
結莉乃
「あ…はい。分かりました」
そういえば…と結莉乃は改めて虎蒔の服装を見る。着物とは違う格好をしており、隣同士の領でも服装に違いはあるのだと理解する
結莉乃
(漢服…って言うんだっけ?ひらひらしてて可愛いなってテレビで見て思った事ある)
町に来てすぐの時は混乱していて考える余裕が無く着物だと思っていたが、虎蒔のお陰で落ち着いたのもあり改めて考えると薫だって漢服を着ていた。それなのに何故、今の今まで忘れていたのか…自分がそうなってしまう程に余裕が無かったのだと理解する