第12章 訪れた難に身を委ね
降ろされ座り込む天音へ結莉乃は振り向き慌てて近付くと地面に膝をつく。そして、強くいなきゃ…そう思った結莉乃は未だ糸を絡ませたままの蜘蛛男を見上げる
結莉乃
「糸が絡まっていたら治せるものも治りません。…解いて下さい」
蜘蛛男
「薫様の命では無い為それは出来ん。逃げるやも知れぬ」
結莉乃
「天音くんは逃げません。…ね、天音くん」
天音
「多分、な…っ」
血を流しながらも笑う天音を見詰めて結莉乃は眉を下げる
結莉乃
「もう傷ついて欲しくないから」
天音
「ちっ…わーったよ」
薫
「解いてあげな」
薫の指示に従い蜘蛛男は天音に巻き付けていた糸を解いた。
備え過ぎても訪れる難はあるんだと…結莉乃は思い苦しくなった
天音
「結莉乃…っ…行ったら、駄目だ…アンタだけでも、逃げろ…」
ぜぇぜぇ、と呼吸を繰り返しながらも天音は結莉乃の身を心配しそう告げるが彼女は首を横に振った
結莉乃
「私は貴方達が傷付けられるの嫌だから…逃げない」
そう柔らかな笑みを浮かべて告げながらも両掌を天音へ向け治癒の力を発動させる。淡い光が天音を包み込む。初めてその光景を見た者達は驚き目を丸くする
薫
「ほう…これは凄い」
自身の顎を撫でながら薫は興味深そうにその光景を眺める。全身を覆っていた激痛が引いていく感覚に天音の表情が幾分か柔らかくなる。そして、貫かれた傷も糸で刻まれた傷も消えたが紅く染まった着物と袴の破れた部分は生々しく残った
だが、傷が治ったという事は別れを意味していた
結莉乃
「天音くん、沢山稽古をつけてくれてありがとう。天音くんのお陰で刀を振れるようになったよ。…それに、天音くんが少しでも自分の名前を好きになれてたら良いな…私に呼ばれるのは嫌いじゃないって言われたの嬉しかった。今まで色々ありがとう…皆に出会えて良かった」
溢れる涙を拭い結莉乃は天音の首に腕を回して抱き締める。天音は今起こっている事を受け入れられなくて言葉が出てこない
結莉乃
「胤晴さん達に宜しくね。…さよなら」
天音
「結莉乃…おい」
すっと離れると結莉乃は立ち上がり薫の方へと行ってしまう。それを見た薫は天音に近付く