第12章 訪れた難に身を委ね
薫
「戦わずとも…君がこっちに来て嫁になれば良い話だよ。そうすれば君の大切な仲間は誰も傷付かない」
結莉乃
「………」
言葉にせずとも結莉乃の瞳は同意を見せていなかった。すると薫は自身の顎に手を添え
薫
「ふむ…まだ悩むか。それならば…」
天音
「ぐ、ぁっ…!」
天音の呻きに結莉乃が振り向くと無数の糸が彼の身体に巻き付き身体が浮き上がっている
結莉乃
「天音くん!!」
視線を前に戻すといつの間にか薫の隣には、背が高くがたいの良い男が片手を伸ばしており…その指先からは糸が伸びていた。見るからに他の男達とは空気が違い、すぐに側近である事を理解すると同時に驚く。爬虫類と鳥類の領なのに昆虫の彼が側近であるという事は相当の実力があるのだろうからだ
天音
「クソ、っ…この糸切れねェ…!ぁぐ…!」
糸を解こうと暴れる程に彼の身体へ絡み付き徐々に傷が増えていく。その様子に結莉乃は瞳に涙を滲ませ叫ぶ
結莉乃
「お願い、もうやめて…!」
薫
「ならばもう一度問う。…どうする?」
天音
「はァ、っ…ンな奴の言葉、聞くんじゃねェ…結莉乃…っあぁ゙…!」
蜘蛛男
「…黙っていろ」
苦痛に顔を歪ませ口から血を流しながらも結莉乃に言葉を聞かないよう告げる。だが、蜘蛛男が指を内側に入れると天音の身体に強く食い込み更に傷が増え血が溢れる。天音は引き千切られそうな痛みに身体を仰け反らせる
天音の下には血溜まりが出来る程で結莉乃は悲痛に顔を歪め薫を涙が溢れる目を拭わぬまま振り向く
結莉乃
「…本当に私がそっちへ行ったら天音くんにも、胤晴さん達に何もしませんか…っ?」
薫
「嗚呼…可愛い花嫁のお願いだからね、ちゃんと守るよ」
天音
「おい…っ…ぐ、!」
その言葉を聞いて結莉乃は瞼を閉じ小さく息を吐き出してから、ゆっくりと瞼を持ち上げ薫を見詰める
結莉乃
「……分かりました。でも、そっちに行く前に彼を治癒をさせて下さい。それから…お別れも」
薫
「うん、構わないよ。…彼を降ろして」
結莉乃の返事に満足そうに笑みを浮かべた薫の指示で蜘蛛男は天音を地面に降ろす。糸も緩まりはしたが逃げられない様、絡み付いたままだった