第3章 始まった非日常
結莉乃
「あ…おはよう。そうだったんだ」
眞秀
「で、どうした?何か台所にでも用があったか?」
結莉乃
「あ…その、何か手伝えたらと思って」
推しが料理を作るのが好きだと言うのは知っていたが、普段のゲームでは料理をしている描写はありつつも実際にその光景を見られる訳では無いので思考停止を阻止した次には叫びそうになるのを堪えて言葉に詰まり気味になってしまう
眞秀
「お、そうか?なら味噌汁を作ってもらっても良いか?」
結莉乃
「うん!」
結莉乃の申し出に眞秀は嬉しそうに目を細め、持っていた包丁を木のまな板の上に置くと彼女の場所を空けるように横へとずれ、懐から何かを取り出す
眞秀
「ほれ」
結莉乃
「……?紐?」
眞秀
「袖が邪魔だろ?」
結莉乃
「あ、成程」
結莉乃
(テレビで見た事あるやつだ!どうやってやるんだろ…こう?いや、こうかな?)
渡された紐で袖を纏めて動きやすくするのだと理解は出来たが、和服を着る機会が皆無と言って良い程でどうしたら良いか分からないのと同時に推しからの視線に手が震えた
眞秀
「貸してみな」
結莉乃
「え?あ、うん」
暫くは見守っていた眞秀だったが、彼女がやった事が無いのだと理解して優しく紐を貸すように促す。それに、結莉乃が大人しく従うと眞秀は後ろへと回る
結莉乃
(か、顔近い…!推しの…推しの顔が!)
正面では無いにしろ後ろに眞秀が居るという気配と触れられる感覚に結莉乃は身体全体が茹だる様に熱くなるのが分かり、気が付けば息をするのを忘れていた
眞秀
「よし、出来た」
結莉乃
「え?あ、……ありがとう…」
きゅっと縛ってから聞こえた眞秀の声に漸く意識が戻ったように感じ、はぁっと息を吐きだす。
眞秀
「よし、さっさと終わらせるか」
結莉乃
「うん!」
元気良く返事をしたものの結莉乃は突然に包丁を持った手を止めて、ちらりと隣へと視線を動かす
結莉乃
(お、推しと…二人で台所に立ってる…え、え?何これ?)
叫びそうになるのを堪えて何とか味噌汁作りに集中しようと息を吐き出す