第11章 難はいつもすぐ傍で寄り添う
「もう大丈夫」
結莉乃
「す、すみません…ありがとうございます」
不思議な光景に圧倒されながらも結莉乃は慌てて謝罪と感謝を述べる。すると、男性の視線が結莉乃の腰元へ向かう
「おや、君は刀を持っているのかい?」
結莉乃は自身の身体を見下ろし、走った事で晒されてしまったのか羽織が肌蹴て覗く柄を慌てて隠す
「その刀を使わなかったのには理由があるんだろうか?」
結莉乃
「え?あ、えと…異形以外に刃物を向ける事が出来なかったんです。それにあの数に自分が勝てるのかも自信がなくて…」
「成程。…異形で無くても君に害を成し、命が危うくなるかもしれない。であれば、その刃を向けるしかないんじゃないか?」
確かに…と結莉乃は納得してしまった。それでも異形以外に向けるのは少し怖く感じてしまった。返事に困っていると男性は柔らかい笑みを浮かべる
「君の名前は?」
結莉乃
「あ……結莉乃、です」
「僕は薫。…じゃあ今日の所は帰るよ。またね結莉乃さん」
結莉乃
「ま、また…」
ゆるりと手を振り去っていく背中を結莉乃はただ見詰める。返事に困っている間に進んで行った会話に戸惑いつつ答えた結莉乃は、不思議な感覚になりながらも足早に屋敷へ戻った
結莉乃
(異形以外に刃物を向ける…か)
自室に入った結莉乃は縁側からまだ咲いていない桜の木を眺めながら先程の事を思い出す
結莉乃
(でも、もしかしたら向けなきゃいけなくなる事もあるのかもしれない…今回みたいに退けなきゃいけない時が…)
命を奪う、まではいかずとも怪我を負わせて逃げなくてはならない事もあるかもしれないと。男性…薫が言っていたように命が危うくなるのなら、それは刃を向けざるを得ないのではないか…と結莉乃は思った
そんな時が来なきゃ良いな…そう思いながら結莉乃はその日を終えた